「『吾輩は猫である』を読む」を読む
谷口巖氏の「『吾輩は猫である』を読む」は、漱石の処女作を、最近流行の漱石論に足をとられることなく、いくつかの切り口で丹念にたどって見せた、『猫』探索の本である。著者の視点は大きく分けて季節、人物、地理、時代の4つ。それぞれの側面をなす要素をを作品から一つひとつ拾い上げ、丁寧に分類整理して我々に提供してくれる。
つい読み過ごしてしまう細部をこうして改めて解説してもらうと、いろいろな発見があって面白い。苦沙弥先生の家の見取り図など、漠然と想像していたものを図解で見ることで、イメージがより鮮明になる。考察の根拠や出典もきちんと示されているので、『猫』読解のための基本的な手引きともなろう。
全く奇を衒うことなく淡々と書きすすめられる筆致からは、『猫』への愛着と漱石への共感が伝わってくる。大向こうを唸らせるような派手さはないが、我々自身の漱石体験との乖離のない、等身大の漱石論と言っても良い。著者はあとがきで「この本を、漱石を読むことをいつもの楽しみとしている人、漱石を読むことを何か心の支えの一つと感じている人、そういった人たちに贈りたい」と述べている。詳細なガイドを得ることで、『猫』を読む楽しみがいっそう広がるに違いない。
(Feb.4, 1997)
『吾輩は猫である』を読む
- 著 者:
- 谷口 巖
- 発行所:
- 近代文芸社
- 初 版:
- 第1刷
- 定 価:
- 1500円
- ISBN
- 4-7733-5967-6
§目次から
- 『猫』の四季
- 『猫』の群像
- 続・『猫』の群像 −主要登場人物名考−
- 『猫』の地理
- 続・『猫』の地理 −作品言及<場所>名考−
- 『猫』の時代
近代文芸社の連絡先
〒112 東京都文京区目白台2-13-2
03-3942-0869