巨人的提琴
中国語ではコントラバスのことを巨人的提琴と呼ぶのだそうです。コントラバスの歴史の中では、まさにその名の通りの、とてつもない大きさのものが作られたこともあります。
- マーチンのダブルベース
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1786年に、イギリス・バーミンガムの東にある古都レスターのマーチンという弦楽器メーカーが、あまりに大きいので1階の天井に穴をあけ、ヘッドの部分を2階に突き出したベースを製作しました。チューニングするためには2階に登ったのだそうですが、どうやって演奏したかという記録は残っていないそうです。
- ヴィヨームのオクトバス
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19世紀フランスの天才的バイオリン製作者ヴィヨーム(Jean-Baptiste Vuillaume)が、1851年に作った、超大型ベース。ダブルベースではなくオクトバス(Octobasse)と呼ばれます(蛸ではない)。全長4メートル、弦は3本で、チューニングはC'-G'-C(当時の3弦バスより4度低い)。
弦はとても指の力では押さえられないので、それぞれのポジションにギターのカポタストのような金属のバーが7本装着してあり、バーはネックの端のレバーに連結され、そこから胴体を通って踏み台の7個のペダルにつながって、これらを操作することで音程を変えるという仕掛けだったようです。
ベルリオーズが重要視したとも言われますが、結局この楽器は数回演奏されただけで参考品としてオクラ入りになり、現在はパリの
コンセルバトワールの博物館音楽博物館(Cité de la musique)に保存されています。- パリ音楽博物館のオクトバス関連情報
- このオクトバスを復元しちゃったというオクトバス・オフィシャル・サイト(伊)で、イラストや写真を含め、面白い記事を読むことができます
- 2016年10月20日にモントリオール響がオクトバスを復元、R.シュトラウスの「英雄の生涯」などで演奏会デビューさせました。指揮したケント・ナガノへのインタビュー記事。動画もあります。
プラニャウスキー『コントラバスの歴史』には、これより前、“1834年、デュボワという人がオクトバスをこしらえた”という記事の引用もあります。
- ザ・ジャイアント
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ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に納められている「ザ・ジャイアント」という巨大な3弦バスは、高さ2.6メートル、幅1.1メートルで、17世紀に作られたもの。ベースの名手、ドラゴネッティの所有であったと言われます。
写真は同博物館で撮影したもの。大きすぎるので展示フロアではなく、2階にのぼる階段の途中に据え付けられています(エンドピンの位置は2階の床よりもずっと下の方にある)。左に小さく写っている人物と比べると、その大きさが分かるでしょう。
- アメリカの巨大ベース
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おそらく世界最大と思われるのは、1889年のシンシナティ音楽祭のためにジョン・ゲイヤー(John Geyer)が制作したGrand Bassで、高さが4.8メートル、幅が2.8メートルあったとされます。(この楽器の作者をPaul de Witとしている文献もありますが、『コントラバスの歴史』によれば、Witは"Zeitschrift für Instrumentenbau"という楽器制作者向け雑誌の編集者で、この楽器のことを紹介した人であるとのこと)
また、1920年代はじめにニューヨークで展示されたコントラバスは、全長は3.5メートル、胴の長さ2メートル、幅1.2メートルだったそうです。
出典
- プラニャウスキー(田中、十枝、滝井訳)『コントラバスの歴史』1979年(原著1970年)全音楽譜出版社
- 今泉清暉ほか『楽器の事典 ヴァイオリン』1992年、東京音楽社
- グローヴ音楽事典