もう発売されて2年以上経っているが、チャールズ・マッケラスのブラームス交響曲全集を買ってきた。調べものをしていてBernard D. Shermanの演奏評を読み、ノリントンとの演奏の詳細な比較があって興味深かったからだ。

マッケラスのブラームスは、ノリントン同様のHIP (Historically Informed Performance) ではあるが、一部の管楽器を除いてはモダンの楽器。ただし編成はかなり小さい。発売当時はいろんなところで話題になっていたようだ(今はレコード屋でもあまり在庫はないみたい)。シャーマンのいうとおり、この演奏はノリントンに比べて、より柔軟なテンポと暖かみのある音色(とくに内声部)をもっている。主要なフレーズのアウフタクトをたっぷりとのばしてみたり、ところどころでポルタメントを用いたりしているのも特徴的だ。聴いていると思わずスコアを開いてみたくなるような発見が随所にあり、興味深くまた優れた演奏と言っていいだろう。1番の2楽章の異版の演奏が収録されているのも貴重。

個人的にはノリントンの解釈の方が音楽の推進力があって好きだが、シャーマン氏はマッケラスこそがブラームスのHIPの神髄であるという持ち上げようである(ちなみに、昨年末に出版された『ブラームス4つの交響曲』では、ウォルター・フリッシュ教授はノリントンのためにわざわざ一節を設けて絶賛し、マッケラスについても「暖かく流麗、そして魅力的」と誉めている)。どっちがいいかは好みの問題で、両方とも愛聴盤になりそうだ。しかし、こういうHIPがその後あまりフォローされないでいるのは寂しい限り。

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