モーツァルトの未確認ニ長調交響曲
ザルツブルク近郊のイシュルで発見され、ウィーン楽友協会が2004年10月27日にオークションで落札した筆写譜のコレクションの中に、「ウォルフガング・モーツァルト作」と記された交響曲のパート譜が含まれていた。楽友協会資料室のオットー・ビーバ博士によると、スロヴェニアのリュブリヤーナ(クロアチアのザグレブ?)に同じ曲の手書き譜があり、それには同時代のザルツブルグの作曲家ヴェスターマイヤー(David Westermayer)作と記されているが、モーツァルトの作品である可能性も十分あるという。
楽譜の写真を見ると、イタリア語でSinfonia a 2 vilolini, 2 oboi, 2 clarini, viola, con basso. del Signore Wolfgang Mozart
と記されているのが分かる。曲はニ長調で4楽章構成。ビーバ博士は、モーツァルトの真作ならば8〜10歳頃(1964-66)の作品ではないかと推測しているそうだ。
用紙の透かしを調べたところでは、ケルン、もしくはボンで製紙されたものとみられ、これがザルツブルクでも使われていたのかどうか、ビーバ博士が考察中。作品をモーツァルトのものと判定するためには、他にも使われたインクや、コピスト(筆写屋)の特定などを検討しなければならない。
資料批判に加え様式面からの検討も重要だが、幼少の頃はまだ他の作曲家の影響が強く、明確な判断は難しい。1964-66頃の作であるK.16などは全て3楽章構成で、編成もTrp (clarino)ではなくHrを用いていること、モーツァルトの書簡にはこのニ長調を示唆するような記述はないことなど、疑問点もある。とはいえ、これがモーツァルト作ではないとするはっきりとした根拠もないわけで、そう簡単に結論が出そうにはない。モーツァルト・イヤーの2006年中に、「モーツァルトの真作交響曲」と発表されれば、話題性は十分ではあるのだが。
参考:
- "Kein Gag zum Mozartjahr"
- Musikverein analyzes unknown "Sinfonia del Wolfgang Mozart"
- オットー・ビーバ(小宮正安訳),「秘曲発見? 真の作曲者はモーツァルトか―ウィーン楽友協会のアルヒーフより(4)」,『レコード芸術』2005年4月号