ロジャー・ノリントン2008日本公演


ジャニーヌ・ヤンセンと共演するノリントン(2008年来日公演のステージリハーサル)

ノリントン+RSOシュトゥットガルト2008年の来日公演の記録です。

2月8日川崎公演

〔写真〕ベートーベンのピアノ協奏曲第4番を弾き終えて拍手を受けるノリントンと小菅優 〔写真〕ブラームス交響曲第1番のあと大喝采を受けるノリントンとシュトゥットガルト放送響

各地の公演を経て最終日に至ったノリントンは、さすがに疲れてホールで仮眠を取ったりしていましたが、それでもリハーサルはポイントを押さえてこなし、元気も回復した様子。ミューザ川崎の音響や客席の配置も気に入って「いいホールだ」を連発し、さらにショッピングモールと隣接して便利なことに感心して、「64もレストランがあるんだとさ」と喜んでいました。

このホールは客席で聴くのは初めて。3階の上手の席をとったところ、音量も弦と管のバランスもまずまずでしたが、背中を向ける形の第2バイオリンの音があまり届かずやや残念。オーボエもやや埋もれる感じだったかな。思ったより残響は少なめで、直接音の成分が多い印象ながら、逆に言えばクリアな音で、細部まで良く聞き取ることができました。

協奏曲は、ピアノを内側に入れてソリストが客席に背を向ける、ファンにはおなじみの配置。3つの楽章それぞれの個性が際立っていて、楽しかったです。なかでも終楽章は、ここはこうだったのか、という発見がいっぱいありました。弦楽器の、一音もいい加減に弾かない徹底したフレージングは見事でしたね。

ブラームスの冒頭は、最初の1音が今まで以上に強いアクセントで驚かされますが、フレーズの抑揚は予想外に控えめで、すごい推進力の前回よりもむしろ丁寧な序奏。第2楽章は派手なポルタメントがなかなか効果的でした。第3楽章では、ホールの響きになれないのかアンサンブルが少し乱れたりもしたものの、終楽章はそれぞれの見せ場でしっかり唸らせつつ、圧倒的なコーダで締めくくってくれました。倍管の効果が良く出たリッチな音も堪能できましたが、やはり弦のフレージングが素晴らしい。上から見下ろしていると、なるほどこういう弾き方でこういう音作りになるのかと、魔法を見ているような気分でした。

ノリントンは、来日するたびに日本の聴衆がワンダフルだと繰り返していますが、特に今日はお客さんの反応がよかったように思います。ステージ上の奏者も含め、会場全体がいい雰囲気だったのは、演奏ももちろんですが、川崎ミューザの客席と舞台の近さもあるのでしょう。素敵な演奏会でした。

東京の演奏会の翌日には、SWR2のラジオのニュースで日本公演の様子が現地レポート入りで紹介され、オーケストラ事務局からは早くも演奏会の成功を伝えるニュールレターが送られてきました。シュトゥットガルトからは、1月30日の演奏会を聴く(+日本観光)ツアーが組まれたりと、この来日公演はかなり力が入っていた模様です。また近いうちに、再来日してくれることを期待します。

1月30日東京公演

〔写真〕リハーサルで指揮するノリントン

冒頭のトリルとイギリス民謡風の旋律が印象的な《すずめばち》序曲は、ノリントンが「たぶん日本初演だ」と言ってましたが、どうなんでしょうか。今回の来日公演ではイギリス系の曲がメインにないので、序曲とはいえ結構気合が入っていました。

中プロの協奏曲は、ジャニーヌ・ヤンセンの意欲的なソロもあって、これぞメンデルスゾーンという演奏だったのですが、サントリーホールはちょっと器が大き過ぎる感じで、2階センターでは音がすごく遠く聴こえてしまいました。座席によるのかもしれません(リハーサルを2階サイドで聴いたときは素晴らしかった)が、もう一回り小さなホールなら、もっと良さが出ていたはずと惜しまれます。

エロイカは、ノリントンの演奏を知る人ならある意味でお馴染みなわけですが、それでも細部のアーティキュレーションは、一層凝ったものになっていました。たとえば第1楽章第2主題の表情とか、第2楽章冒頭のベースとかね。第2楽章終結部(228小節目)の不協和音が、あんな風に哀切に満ちて響くのを聴いたのは初めてです。

エロイカでは木管を倍管にし、弱音部や明晰さが欲しいところでは奏者の半分近くを休ませるという、最近ノリントンが愛用する方法で、ダイナミックレンジをさらに広げて鮮やかなコントラストを描いていました。ホルンも朗々と歌うかと思えばゲシュトップで苦悩の音を搾り出し、トランペットもナチュラルに持ち替えて切れ味良い響き。サウンドとしては申し分ないのですが、しかし、やはり残念なことに、ホールの残響が細かなニュアンスを吸収してしまって、面白さが十分生きていないという恨みが残りました(たとえば、強奏からスビトピアノで絶妙なフレーズを歌い始めても、前の音の残響がかぶってしまって、フレーズの頭が不明瞭になってしまう)。これも座席によるかもしれませんが、もったいないことです。

それはともかく、全体としてはノリントンらしい演奏で、ブラボーが飛び交っていましたし、本人も近年の中で最高のベートーベンだとご満悦でした。

1月29日ステージリハーサル

RSOシュトゥットガルトを率いての3回目の来日公演。29日の昼間にはたっぷりリハーサルを行い、いよいよ公演シリーズが始まります。

写真は29日のステージリハーサルの様子です。公演日程は次のとおり:

公演日公演地会場SULRVWFMBLB-PLB-SJBR
1月30日東京サントリーホール---
1月31日大阪フェスティバルホール---
2月1日広島広島国際会議場フェニックスホール ---
2月2日福岡福岡シンフォニーホール ---
2月4日仙台イズミティ21・大ホール ---
2月6日金沢石川県立音楽堂コンサートホール ---
2月7日名古屋愛知県芸術劇場コンサートホール---
2月8日川崎ミューザ川崎シンフォニーホール ---

2/2(福岡)のみ昼公演、他は夜公演です。プログラムは以下のようになります。

放送響のシーズンプログラムには1/29、2/5にも東京・サントリーホールという記載があるのですが、招聘元のツアースケジュールには掲載されていないので削除しておきます。リハーサル、もしくは特別演奏会ということかもしれませんだそうです