私はいつも自分の直観に従っています
Roger Norrington zum 75. Geburtstag, SWR, 2009-03-10, by Doris Blaich
- 75――これはあなたにとって、他の数字と特に違いのないものでしょうか、それとも過去を振り返る誕生日なのでしょうか
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75というのは、よい区切りの数字です。私にとっては確かに過去を振り返り、幸せに感謝する機会です。50代の終わりに重い病を患ったのですから、特にそうですね。私は自分の誕生日をことさら祝ったりするわけではありませんが、それでも誕生日のコンサートは楽しむつもりです。
思うに、私は時間を浪費することなく、たくさんのことをやってきましたが、それは自分がやりたいと望んだことでした。他の人がすでにやっていることを繰り返したり、単に焼き直すのではなくね。そして幸いなことに、いつも創造的な仕事ができました。とりわけRSOシュトゥットガルトとの仕事はそうです。
私は計画的にキャリアを積んできたわけではありません。私はいつも自分の直観に従って、最も興味を感じることを選んできたのです。
- あなたは音楽好きの一家に生まれ、子どもの頃にバイオリンを学び、合唱団で歌ってきました。歴史と文学を学んだ後に、プロフェッショナルの歌手としての道を歩みました。こうしたバイオリンと歌の訓練は、あなたの指揮を形作る上でどのような影響があったのでしょうか。
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私たちの学校ではバイオリンを習うことができたので、私はすぐにそれを申し込みました。10歳のときでした。そのころ家にはピアノがなかったので、ピアノは私のメインの楽器とはなりませんでした。多くの指揮者はピアノに秀でており、多声部を同時に弾いたり和音を鳴らすことができるので、とても役に立つでしょう。けれども、バイオリンを弾くことによって、歌うのもまったく同じですが、音楽の線、フレーズの流れに対する感覚が鋭くなります。そのため、フレージングの精緻さ、音楽の曲線の構造が私には重要です。オーケストラの4分の3は弦楽器ですから、その奏法について理解しているのは指揮者にとって有益なことでしょう。
28歳で私はプロの歌手になることを決意しました。歌がいちばん得意だったからです。そこで、残念なことに、バイオリンはあきらめなければなりませんでした。もう長いこと歌っていませんが、それでも歌手としての経験も指揮にはこの上なく有益なものとなっています。それから、15年にわたってケント・オペラを指揮しました。これは今でも、歌手や管楽器奏者と仕事をする上で役立っています。
- 1960年代にはハインリッヒ・シュッツ合唱団を、その少し後には歴史的な楽器を用いるオーケストラ、ロンドン・クラシカル・プレイヤーズを結成しました。あなたは一歩一歩、音楽の歴史に沿って歩んできました。
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初期バロックの音楽であるハインリッヒ・シュッツから私たちは出発しました。それは私にとって素晴らしい発見でした! 何十という合唱作品を演奏したのですが、その時点では録音はまだなく、イギリスではほとんど知られていませんでした。そこで私たちは、この力強いとても劇的な音楽で試行を繰り返し、自身のスタイルを見出すことができたのです。古い楽器に関心を持つ器楽奏者たちが何度も私のところにやってきました。ロンドンにはそうした奏者がたくさんいたのですよ。
そこで私たちは、最初にシュッツの声楽曲に古楽器の伴奏を加え、すぐに十分な数の奏者が集まったのでヘンデルのメサイアを取り上げました。それは、信じられないほど面白かったです! そして私たちは、徐々に古典派やロマン派の音楽も演奏するようになりました。その時点でモデルとなるものはほとんどなく、器楽奏者たちがたくさんの知識を持ちよりました。私たちは実にたくさんの歴史的資料と手稿を研究したのです。新しい時代に取り組むたびに、前の時代において培った経験を生かしました。それは非常に有益で、また理にかなったことでした。つまり、たとえばベルリオーズを適切に演奏しようとすれば、グルックとベートーベンについての正確な理解なしには、実際問題として不可能なのです。
- 10年以上にわたってあなたはRSOシュトゥットガルトの首席指揮者をつとめてきました。歴史的楽器との経験をモダンな交響楽団に移して、ブラームスからマーラー、ワーグナーの音楽に取り組むということの、どういうところがあなたを惹きつけるのでしょうか?
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いわゆる古楽運動の入り口に立っていた頃、私たちは、全てはどんな楽器を選ぶかにかかっていると考えていました。今は、私は違った視点を持っています。なぜなら、ここ何世紀かの間、多くの楽器はほとんど変化していないからです。大きく変わったのは、それがどのように演奏されるかです。ですから、古い奏法で現代の楽器を演奏したら、それはずっと「古風に」響くのです。
このような歴史的な演奏技術を、私はRSOにおいてモダンオーケストラに取り込みました。それは、ビブラートの使用をうんと控える――最近は切れ目なく使うことが普通だけれども、ブラームスもワーグナーもオーケストラがそれを使うのは耳にしなかった――ということだけではありません。弦楽器の弓使い、精緻なフレージング、楽器の並び順、配置、音のバランス、テンポといったものが関係してくるのです。最終的には、それらは音楽の背後にあるアイデアが何であるかということによります。そして私の考えでは、作曲家が当時のオーケストラに期待したことに近づくことによって、最も説得力がある形でそれを理解できるのです。
私にとってRSOとの仕事は非常に重要であり、私たちの音楽の方法によってモデルを作っているのだと考えています。モダンオーケストラは、そのルーツとどのように触れ合っていくことができるのか? これが私たちの問いかけです。そして私たちは、演奏会と録音を通じて、重要な考え方を示しているのです。
- 演奏会においてあなたは聴衆とコンタクトをとろうとして、時々客席の方に振り向いたりしていますね。
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そうです、私は演奏が皆さんを楽しませているかを確認したいですし、音楽を皆さんと分かち合いたいのです。元歌手、元バイオリン奏者としては、お客さんにずっと背を向けたままで、表情や反応が分からないというのは、奇妙なことです。多くの人が演奏会後に「あなたが私たちと音楽を分かち合ってくれたのはとてもよかったよ」といいます。私が振り向くのは、人によっては喜ばないかもしれません。ある演奏会の後で、憤慨した読者がザルツブルクの新聞に投稿して意見を述べていました。指揮者が振り向くのは聴衆が咳をしたり楽章間で拍手をしたときであって、つまり聴衆に不快感を示すときだけであるべきだと。私はしかし、聴き手に対してそんなひどい態度をとるのじゃなく、いい感じに接したいですね! 感激を表現するのが不得手な人もいますが、私はあるがままに、自分の直観に従います。
- 指揮をしていないときは何をしていますか? 余暇はこのために使うという何かはありますか?
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もちろんです! 私は年に26週間指揮や他の教育活動を行い、残る26週間は家で休んでいます。もちろん常に新作を勉強したり、すでに取り上げた作品を新たに読み直さなければなりません。けれども時間は十分ありますから、空き時間には庭仕事をしたり、友人を訪ねたり、劇場に行ったりします。少し本も書いていますし、たくさん読みます――歴史、哲学、芸術史、建築などについてですね。田園の中ほどに住んでいて、馬が三頭、犬が二匹、それにミツバチを8000ほど飼っています。シュトゥットガルト、ロサンゼルス、シカゴに比べると、とても静かで美しい田園生活ですよ。