マッキントッシュ・ネットワーク

近頃は数年前に比べてマッキントッシュもずいぶん安くなりましたから、オフィスで普通に用いる程度の機種なら、まとめて数台導入するというのもそれほど無理な話ではありません。しかし、これらのマシンをそれぞれ単独で使っているとしたら、ずいぶんもったいない話です。鉄道の複線の輸送能力は単線の2倍より遥かに大きいのと同じく、複数のコンピュータがネットワークでつながれるとその力は飛躍的に増大します。いくらかの追加コストを払ってでも、是非ともネットワークは実現させたいものです。

ネットワークとファイル共有

単純な話、たとえばオフィスに複数のマッキントッシュが単独で(ネットでつながれずに)設置されていて、顧客の名簿ファイルがそのうちの1台に保存されているとしましょう。コンピュータが相互に接続されていないのですから、誰かがそのマシンを使っていれば、他の人は名簿を利用できません。たとえ画面に向かっている人は別の作業をしていて、名簿そのものは開かれていないとしてもです。これがケーブルでつながっていれば、別のマッキントッシュからこの名簿を呼び出して作業することができます。無駄な待ち時間がなくなるということは、仕事の効率が向上するということ。共有する情報が多ければ多いほど、このメリットは大きくなるわけです。

待ち時間だけではありません。様々なデータを1台のマッキントッシュにまとめて保存し共有すれば、情報の検索が非常に簡単になります。

ものをきちんと分類整理するというのはたいへんな作業です。整理がきちんとなされないために、オフィスでは資料探しの時間が馬鹿にならず、多大な時間のロスを生んでいるのはご存知のとおり。そして紛失を恐れて、大切な情報は個人が死蔵しがちになり、ますます必要な情報が見つからないという悪循環に陥っているのではないでしょうか。

コンピュータの場合でも、情報をばらばらに保存していると、いざというときに肝心のファイルを探すすべがありません。これを中心となる1台のマッキントッシュで集中管理し、各マシンとネットワーク接続しておけば、どこからでもすぐに情報を検索できます。このありがたさは、一度体験してみるとよく実感できるでしょう。昨日までの捜し物の苦労が夢のように解消されるのですから。

もうひとつ、バックアップを確実に実行できるという利点も忘れることはできません。何台ものコンピュータをきちんとバックアップするのは、管理者にとって全くうんざりする作業です。重要なファイルを1台に集約しておけば、そのコンピュータを毎日バックアップするだけで大丈夫。バックアップは手間をかけずに自動的に行える仕組みを整えることが大切です。面倒だとどうしても作業がおろそかになり、いつか痛い目に遭うからです。

周辺機器の共有

共有できるのはファイルだけではありません。マッキントッシュの場合、ずっと以前からプリンタを簡単に共有できるというのが魅力の一つになっていました。実際、プリンタを複数のマッキントッシュで使うために必要なのはケーブルでつなぐという作業だけ。高品質なレーザープリンタをいち早く市場に投入し、それをどのコンピュータからでも手軽に利用できるようにしたことで、マッキントッシュは特にDTPの分野を中心に大きく成長できたのです。

最近のニーズを考えれば、モデムを共有して、インターネットやオンラインデータベースにどこからでもアクセスできるようにするという使い方も注目に値するでしょう。

会社がインターネットに専用線接続していて、社内ネットワークを通じて自由に利用できるという環境はまだそれほど一般的ではありません。多くの場合は部署に外線電話を1回線用意し、そこにモデムを接続しているでしょう。このときモデムが特定のコンピュータにしかつながっていないのでは、やはり使いたいときに空いていないという非効率が生じます。ネットワーク上でモデムを共有すれば、誰もが通信のパワーを活用できることになり、ずいぶん便利になるに違いありません。

さらに、これをFAXモデムにしておけば、各人が自分の席から文書をFAXすることもできます。わざわざ印刷してから送るのではなく、コンピュータから直接送信するのですから、画質が格段に鮮明になる上、どこにどのような文書を送ったかという管理も容易。まだまだFAXに頼る文書のやりとりは少なくありませんから、これはかなり実用的な応用だと思います。

またこれに加えてARA(アップル・リモート・アクセス)を導入すれば、社外から電話線経由で会社のファイル・サーバーや自分のコンピュータを操作することも可能です。あるいはパワーブックと組み合わせていわゆるモービル・コンピューティングも比較的容易に実現できます。今後の発展が期待される分野です。

電子メールとグループウェア

ネットワーク化の最大のメリットといえば、電子メールに代表されるグループウェアによって、共同作業の効率を大幅に向上させられるという点でしょう。お互いに顔の見える同じ職場で、なぜわざわざ電子メールかと思われるかもしれません。しかし、重要事項をメンバー全員に伝えたいとき、不在の人に別途連絡するのは二度手間になってしまいますし、ひどいときには情報が伝わらないということもあり得ます。回覧という手段では情報が書類の山に埋もれてしまい、1カ月もしてからようやく最後の人が読むなどといったことも珍しくありません。

電子メールならメンバーに同報メッセージを流すだけ。しかも、これをカット&ペーストで加工して新しい資料を作成することもできます。紙の書類のコピーを受け取って、もう一度タイプし直すのと比べれば、効率の違いは明らかです。

さらに、お互いのスケジュールやプロジェクトの進捗を管理するソフトを使えば、グループでの作業がうんとスムーズになります。個人の力だけではなく、グループとしての総合力を最大限に発揮する。ネットワークの威力は、1+1を3にも4にもするところにあるのです。

ネットワークとアップルトーク

さて、ケーブルでつなぐとかネットワークするとか書いてきましたが、これはそもそもどのような仕組みになっているのでしょう。

ネットワークというのは相互に対話にできるコンピュータの集まりです。例えばマッキントッシュとWindowsを単に線でつないでもそれだけではネットワークにはなりません。お互いに話す言葉が異なるため、未知の外国人同士が突然であっても会話できないのと同じように、そのままではコミュニケーションがとれないのです。だから、ネットワークを構築するためには、ケーブルで物理的な配線を行うだけでなく、共通の言葉を話すというソフトウェア的な協調も必要です。この両面が満たされたコンピュータの集合をネットワークといい、特に同じ建物内でのケースをLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)と呼びます。

マッキントッシュの場合は、物理的なケーブルは手軽なローカルトークや高速のイーサネットなどが利用できます。言葉に当たるソフトウェアは、アップルトークと呼ばれるデータ交換のための約束(プロトコル)の集合です。マッキントッシュでは全てのマシンに最初からこのアップルトークが用意されているため、特別な準備なしですぐにネットワークを構築できるのです。

複数のコンピュータがコミュニケートするためには、それぞれのマシンにアドレスや名前を割り当てたり、データの交通整理をしたりといった手続きが必要ですが、アップルトークはこれらのことをとても簡単に実現できるように設計されています。最もシンプルなネットワークなら、ローカルトークケーブルでマッキントッシュ同士を接続し、コントロールパネルの「共有設定」「利用者&グループ」を少し操作するだけで、ほんの十数分もあればできあがるでしょう。活用が進めば配線をイーサネットに置き換えたり、専用のファイル・サーバーを設置したりするようになるでしょうが、これも他の機種に比べればずっと簡単。もちろんWindowsや他の機種とのネットワークも可能です。

アップルトークのネットワークは、専門スタッフを置くほどではない小規模のグループには、コストの面からも管理の面からも最適の選択といって良いでしょう。次回から、特別なソフトを使わない手軽なネットワーク構築からはじめて、AppleShareサーバーによる本格的ネットワーク、Windowsとの共存、イントラネットのような情報共有環境の検討まで、ユーザーの手によって実現できるネットワーク構築について、順次ご案内していきたいと思います。

(MacFan 1996-11-15号)