TCP/IPについて

TCP/IPが何か知らなくてもインターネットは使えます。けれども、その背景を含めた理解が、思わぬ所で威力を発揮するかもしれません。用語解説をベースに、インターネットを支える技術の世界に触れてみましょう。

なぜ技術について考えるのか

最近では「スターターキット」のような便利なものも販売され、特別な知識が無くてもインターネットに接続できるようになってきました。そんな中で、わざわざ用語や技術について改めて考えてみるメリットは何でしょうか。

まず、何かトラブルに直面したとき、論理的にその解決策を考えることができる。第二に、玉石混淆の情報の中から、まがいものを見分ける目を養える。そして何よりも、世界の英知が理想を目指して作り上げてきたシステムを探訪するということは、それ自体がわくわくする知的刺激に満ちているはずです。このシリーズでは、直截的なノウハウよりもそうした基礎や背景について、利用者の立場から捉えていってみたいと思います。

インターネットは分業と協調のネットワーク

コンピュータのネットワークといっても、パソコン通信からキャッシュコーナーと銀行をつなぐのものまで含めて、いろいろあります。これらのネットワークとインターネットはどこが違うのか。少し大胆にまとめれば、インターネットは中心(センター機能)に依存せず、つながっているコンピュータ全てが役割を分担し、相互の協調によって成り立つネットワークと言えるでしょう。

ここで互いに接続されるマシンは、ウインドウズ、マッキントッシュ、UNIXなどとさまざまな種類があります。それらが対話をし、情報を交換するためには、コンピュータが線でつながるだけではなく、どんな言葉でやり取りするのかを定めておく必要がありますね。人間の言葉にも英語や日本語などさまざまな言語(言葉のルール)があるように、コンピュータどうしの対話のためにもいろいろなルールがあります。TCP/IPというのは、インターネットで情報をやり取りするためのルール集にあたるものです。

IPとTCP

インターネットでは、データを「パケット」という小包に分け、バケツリレーのように転送して目的地まで運びます。中継するコンピュータには乗り換え表のような情報が用意されていて、これに従って次の中継点へリレーしたり、万一そこが不通の場合には、迂回路を選んで送るという作業が行われています。このような、リレー転送のルールを定めたものがIP(インターネット・プロトコル)です。中継点はとりあえず隣に送ることだけを考えればよく、ネットワーク全体を管理するよりうんと負担は軽くなります。

TCP(トランスミッション・コントロール・プロトコル)は、データの出発点と目的地の間で、データの受け渡しがきちんとできるように管理するためのルールです。IPによって送られてきた小包(パケット)が全部揃っているかを確かめたり、正しい順序に並べなおしたりという役割を担います。

例えば工場Aから工場Bに大型ロボットを移設する場合、そのままでは搬送できないので、いくつかの部品に分解して運送業者に委託するでしょう。このとき、トラックがどの道路を通っていくか、どこで中継して荷物を積み替えるかということは、運送業者(IP)に任せてあり、工場では特に関知しません。そして荷物が届いたら、部品をチェックし、もとのロボットに組み立てるのは工場(TCP)の仕事ということになります。工場でトラックの道順まで責任を持つとしたらどれほど煩雑なことになるか想像すると、この分担の合理性がわかりますね。

自律性が生むインターネットのパワー

インターネットはこのようにいろいろな面で分業が行われています。TCPとIPの分担もそうですし、データをバケツリレーする共同作業も、分業の一種です。世界の何千万ものコンピュータをつなぐという壮大なネットワークは、このような分散型、分業型の仕組みでないととても維持できません。全能の統治者が世界帝国を納めるのではなく、各地の専門家が自分の分担をこなすことで全体が機能する。これがインターネットの考え方です。そして、インターネットの世界が活気に溢れ、つぎつぎに新技術が生まれる理由もこの自律性にあるのです。

(NetFan, November 1996)

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