ちょっとしたメモ

del.icio.usと情報カード

ここしばらく、これは使えるとdel.icio.usを集中的に利用しつつ、何をそんなに気に入っちゃったのか、いまひとつはっきりしないところもあった。タグやらフォークソノミーはもちろん面白いし、どこからでも登録・参照できるのが便利なのも間違いない。でも、それだけじゃないんだよなと考えていたわけだが、昨日ふと思いついた答え:あぁ、これは情報カードなんだ。

その昔、本や論文を書くには、文献を読み漁って気になる点をせっせとカード(京大式カードなんて、懐かしい)に抜き書きしていた。そしてある程度カードがたまった段階で、それを眺めたり仕分けたり並べたりして構想をまとめ、執筆中もカードを頼りに引用をして論点を補強していったわけだ。

その後コンピュータが登場し、『思考のエンジン』(奥出直人、ISBN:4-7917-5134-5)とか『考える道具としてのMacintosh/HyperCard』(梅村恭司、ISBN:4-320-02484-2)などを経てアウトラインプロセッサやカード型データベースを使うようになり、ウェブ時代にはブラウザのブックマークが情報源となっていった。実際、本を書いた過程を振り返ってみると、専用のブックマークフォルダをつくってとりあえずページを登録しておき、アウトラインプロセッサに主題を書き込みながらそれらのページをもう一度確認する、という形で構成をまとめていたよな。

情報カードとブックマークを比べてみると、使い方の点で大きな違いがある。

  • カードが簡単に並べ替え、組み替えを行ってデータを柔軟に知識としてまとめていけるのに対し、ブラウザのブックマークは基本的に階層型であまり融通が利かない
  • カードは抜き書きやメモが中心になるが、ブックマークはURLを記録するだけ(キーワードやメモを加えられるブラウザもあるが、まず使わない)

つまり、ブラウザのブックマークは、文献リストではあっても、発想のツールとしてはあまり使いやすいものではなさそうということだ。オンライン・ブックマークは、この両者の特徴を兼ね備えた面白いツールとして捉えることができるだろう。

いうまでもなく、タグは固定的な階層ではないから、集めた情報をいろいろな切り口で眺めることができる。自分のブックマークから特定のタグ(あるいは組み合わせ)の項目を選んで一覧してみると、ほんの数ヶ月の蓄積であっても、それなりに発見があるだろう。del.icio.usのタグリストはアルファベット順だったので、個々のタグより上位の概念で情報を見るのは難しかったのだが、最近タグをグループ化する機能が試験的に加わり、扱いやすくなった。

オンライン・ブックマークのメモ部分は、人によって使い方は異なるだろうけれども、これは情報カードのメモにとても近いという気がしている。各ページのtitle要素をそのまま登録しておくだけではなく、適宜編集したりメモを加えておくことで、ブックマークの各項目がカードのように情報のエッセンスとして機能し、並べ替えによる発見の効果も高い。

del.icio.usではこのメモ欄が255バイトに制限されているが、逆にこれが面白い効果を生んでいる。これだけの長さで情報を要約するには、(ざっと眺めるだけであっても)全体に目を通さなければならず、単純なフレーズのコピーではなくて、そこから大事なポイントを選ぶという作業を行うことになるのだ。このメモ欄の字数制限をなくして関連部分をまるごとコピーできたりするde.lirio.usなんていうのも登場してきたが、多少苦労しながらdel.icio.usにメモしていく方が情報カードに近い感じで、ブックマークすること自体が頭の体操になる。

タグを経由して他の人たちがブックマークした情報を参照できるのは、文献リストが常に最新の状態で提供されているわけで、情報収集のスピードと広がりは手作りカードの時代とは比較にならない(下手をすると情報洪水に溺れるという結果にもなりかねないわけだが)。APIを用いて工夫すれば、もっと便利な使い方も編み出せそうだが、本体単独でもまだ可能性が潜んでいるように思う。

del.icio.usの「私のブックマーク」は、ン十年前に京大式カードでとっていたメモの数倍のスピードで(読む速さはたいして変わっていないから、数十倍とは行かない)増殖しつつある。案外早いタイミングで、面白いアウトプットが出せるかも知れない。