Historically aware performances
in Proms 1996
(1996年9月3日フィナンシャル・タイムズ芸術面より抄訳)
3人のオーセンティック演奏の「導師」たちが、週末のロイヤル・アルバート・ホールでの演奏会に登場し、歴史的考察に基づいた演奏のスタイルや解釈の幅広さを改めて示した。 金曜日(8/30)にはロジャー・ノリントンが20世紀イギリス音楽のプログラムをロンドン・フィルと、しかしチェロを中央に、ベースを後列の雛壇に乗せるという歴史的なセッティングで演奏した。 日曜(9/1)の午後はブリュッヘンが18世紀オーケストラと(ハイドン「太鼓連打」、ベートーベン・バイオリン協奏曲、ラモー)、夜にはアーノンクールがヨーロッパ室内管と(モーツァルト「プラハ」、シューベルト9番)を演奏した。 その成果は、どれも素晴らしいものだった。
(中略)
ノリントンは、エルガーの「コケイン」、ヴォーン=ウィリアムズの第5交響曲、ニコラス・モーのバイオリン協奏曲に、彼の広い範囲にわたる共感を示していた。ヴォーン=ウィリアムズは期待以上の成功だった:この曲は優れた交響曲とはいえないが、ノリントンは熟練の手法で第1楽章の転調をうまく処理し、ロマンツァで停滞することなく、一貫した、深みのある音楽を生み出した。逆に、「コケイン」は大仰になりすぎ。
3年前に作曲されたニコラス・モーの協奏曲のプロムス初演は、両者の中間に位置している。この曲が歌に満ち、完璧な職人芸でつくられていることは周知の通り。今回の演奏で浮かび上がったのは、この曲の溢れるばかりのアイデア、的確な楽器間のバランス感覚、そして40分以上もの間聴衆の関心を惹きつける持続性といったものだ。この曲はまだ長すぎる−最後の2楽章はまだ刈り込みが可能だ−けれども、ロマン派の伝統を現代的な形式で追求する手法の、きわめて成功した例であることには違いない。
ジョシュア・ベルが、初演の時と同様、作曲者の意図を良く伝える演奏を行っていた。
(Andrew Clark, Financial Times, September 3, 1996)
ロンドンの小川さんから、この演奏会(ヴォーン=ウィリアムズ)の放送テープを送っていただきました。他の指揮者の演奏は聴いたことがないので比較できませんが、豊かな響きながらも明晰な、切れ味の良い演奏だと思います。クラーク氏の評の通りでしょう。
(September 20, 1996)