ロジャー・ノリントンにインタビュー!
ドイツのKさんのご協力により、ノリントンへの書面でのインタビューが実現しました! つたない英文による質問に、FAXでとても丁寧な答えを送ってもらいました。質問が個人的な興味に偏っていたり順序が脈絡無かったりしますが、オリジナルなノリントンの声をどうぞお読みください。オリジナルの英語版も用意しました。
ノリントンへの8つの質問と回答
Q1: あなたのオリジナル楽器オーケストラによる録音は、ブルックナーの3番とスメタナの「我が祖国」以来中断していますが、一方で演奏会ではチャイコフスキーやブルックナーを取り上げていらっしゃいます。ほとんどの人はあなたの演奏会を聴く機会に恵まれないので、これらが録音されることを切に望んでいるのですが、将来的にオリジナル楽器オーケストラによる録音を再開される予定はないのでしょうか?
A: 私はオリジナル楽器オーケストラによる録音をもっと続けたいと強く願っています。おっしゃるとおり、私たちは昨年、ブルックナーの4番をとりあげ、チャイコフスキーの素敵な作品の演奏会をパリやイギリスで行いました。現時点では、レコード会社はこれらの大作の録音には極めて消極的なようです。私の考えでは、チャイコフスキーのような作品を録音することは非常に重要です。なぜなら、そうすることでこの音楽を演奏する新しい方法の様々な局面が明らかになり、それは多くのものにとってとても価値があることだからです。私はこのチャイコフスキー・プロジェクトが録音されること、そして2001年に予定されているオーケストラ・オブ・エイジ・オブ・エンライトゥンメントとのマーラーの交響曲1番のプロジェクトもまた録音に至ることを熱望しています。関心を持つ人がいれば、喜んでフォローしますよ。
Q2: 昨年はチャイコフスキーの「体験」プロジェクトが行われましたが、今年は予定されていないようです。このエキサイティングな「体験」シリーズは、今後も定期的に続けられるのでしょうか? もしそうであれば、次の予定をお聞かせ願えませんでしょうか。
A: そういうわけで、次の「体験」は2001年に〔前述のマーラーと〕ワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集〔女声のための5つの詩〕を合わせて行います。2001年の8月末から9月初めの週末にパリで、9月末から10月初めにロンドンで行う予定ですが、この冒険の詳細日程はまだ決まっていません。
Q3: ベーレンライター社による新しいベートーベン交響曲の原典版楽譜が来年完結します。この新しい楽譜にはどんな関心をお持ちですか? あなたの画期的なベートーベンの録音が出てから10年が経っていますが、この機会にもう一度ベートーベンに取り組むというようなお考えはありませんか?
A: ベーレンライター社のベートーベン交響曲は非常に重要です。今日に至るまで、ベートーベンのきちんとした楽譜がなかったというのは、たとえばシュッツやテレマンの全集がもう何年も前から入手できているのに比べて、ちょっと驚くべきことですね。
ひとつ注意しなければならないのは、ベートーベンのテクストに関する新発見のかなりの部分は、耳で聞いてもあまり明瞭には分からないものが多いということです。もちろん、それらはすべて作品の理解には非常に有益なものなのですが。耳で聞き取れるものは何かといえば、テンポ、バランス、フレージング、ダイナミクスといったものです。そして幸いなことに、こうした要素は、今のような優れた楽譜が出版される以前でも、全て修正を加えることができたのです。恐らくご存じだと思いますが、別の出版社からもベートーベンの新しい楽譜が出版されます。
Q4: あなたの演奏は、特にオリジナル楽器の場合がそうですが、ホルンセクションのスフォルツァンドをとても強調するという特徴があるように感じます。私はそれが好きなのですが、多くの現代の演奏とはかなり違っているようにも思います。楽器の扱いという観点から見て、どのような点がオリジナル楽器演奏とモダン楽器演奏の違いを生むのか、お話しいただけませんか?
A: 現代の演奏は、とりわけカラヤン以降、なめらかで均質なサウンドの方向に進んできました。これは雄大で「盛り上がる」もので、大きなホールでの大編成の演奏に適しています。対照的に、ウィーンにおける古典派交響曲は小さなホールで小さな編成のオーケストラで演奏されました。この場合、様々な楽器のアタックは、より明瞭に聞き取ることができたのです。私はモダン楽器のオーケストラと演奏する場合も、古い楽器の場合と同じような細部の表現を実現しようと務めています。私は、音楽が生き生きとし、時には危険なものですらあって欲しいと思っているのです。
Q5: 最近はオペラの活動はなさっているのでしょうか。以前あなたのオリジナル楽器演奏のルーツはモンティヴェルディの「ポッペアの戴冠」を取り上げたことに始まると読んだことがありますし、あなたの録音の中では「魔笛」がとても気に入っています。この分野での録音のレパートリーを広げる計画はないのでしょうか?
A: 現在のところはオペラの予定はありませんが、環境が整えば、また録音したいと思います。
Q6: この先数年間は、シュトゥットガルト放送響との演奏があなたの活動の核になるのでしょうか? このオーケストラとの活動でどんなことを目指しておられますか?
A: シュトゥットガルト放送響との活動では、主に2つのメインプランがあります。ひとつは、20世紀の作品を、世紀の全体にわたって(つまりエルガー〔1857縲鰀1934〕からバートウィスル〔1934縲怐lまで)とりあげることです。特に、ドイツでは滅多に演奏されないイギリスとアメリカの作品に焦点を当ててみたいと思います。もうひとつは、もっと伝統的なドイツの作品を、オリジナル楽器の演奏で得た蓄積を生かして取り上げることです。こちらは、伝統あるドイツのオーケストラにとっては、もちろんちょっと革命的なことですけど。
Q7: 私はあなたの日本ツアーの知らせを聞いて、ものすごくわくわくしています。そこで日本について少し質問させてください。これまで日本にいらっしゃったことはありますか? 昨年ロンドンでお目にかかったときは、東洋風の(日本のもののように見えましたが)上着を着ていらっしゃいましたよね。日本、あるいは東洋には興味をお持ちですか?
A: 私も2001の日本ツアーにはエキサイトしています。私自身は日本に行ったことがありませんが、妻が訪問しています(あのジャケットは、彼女の東京土産です)。東洋には非常に興味がありますが、いまのところ外部からにとどまっています。
Q8: Web上でアンネ=ゾフィー・ムターがサー・ロジャー・ノリントンとの共演ができればと語っているのを見たことがあります。実現すれば非常に面白いと思うのですが、可能性はあるのでしょうか。あるいは、まだバイオリン協奏曲は録音されていないわけですが、録音の可能性はあるのでしょうか?
A: 数年前、モーツァルトの協奏曲をアンネ=ゾフィー・ムターとボストン響と一緒に演奏しました。非常に楽しい演奏でした。彼女はいつかモーツァルトを再録音する考えを持っているので、条件が揃えば、喜んで一緒にやりたいと思います。
※〔〕内は訳者注
Answers dated on August 25th, 1999