自動バックアップで心安らかに

先日、知人が青い顔をしているので、どうしたことかと心配して聞いてみると、過去10年ほどの研究用の資料を蓄積してきたハードディスクが認識できなくなってしまったとのこと。そろそろバックアップをとらないとまずいなぁと思っていた矢先の出来事だったといいます。わかっちゃいるけど、なかなか実行できずに後回しになるのがバックアップ。何はともあれ、きちんと確実に実行可能なバックアップ戦略を立てることが肝心です。作業を自動化できるソフトの力を借りて、大切なデータを守りましょう。

データは自分で守る

ディスクトラブルの危険やバックアップの重要性は、ほとんどの人が知識としては知っていることでしょう。しかし、実際にバックアップを実行している人は驚くほど少ないのが実状のようです。

ハードディスクは壊れる可能性があるばかりではなく、複数の人が利用する環境では、誤って他人のファイルを消去してしまうことだってあり得ます。インターネット時代には、思わぬウイルスが紛れ込んでデータを破壊するかも知れません。大切な情報が消滅してしまう危険は、想像以上に身近に存在するのです。

最近は企業のシステム部門も電子メールやイントラネットの導入などで、エンドユーザーのための環境構築に熱心になってきました。しかし、この中で個人のデータのバックアップまで面倒をみてくれることはほとんどないようです。自分のデータは「自己責任」で、あるいは部署の単位で守らなければなりません。

バックアップ作戦

データを守るためには戦略的なバックアップが必要です。どのファイルを、いつ、どこにバックアップするか。この組み合わせによって、日々の作業が楽になったり苦痛になったり、いざというときに復旧がうまくいったりいかなかったりと、大きな違いがでてきます。

バックアップの戦略は、信頼性、コスト、作業の負荷などを考慮しながら、自分の環境にふさわしい方法を組み立てます(図1)。そのとき、いかに無理なく確実に作業を行うかということも大切なポイントです。どんなに立派な作戦を考えても、作業の負担が重すぎて実施されなければ、ただの絵に描いた餅に過ぎません。データの価値と手間・コストを見比べ、本当に実行可能な戦略を立てましょう。

バックアップ・メディアを選ぶ

戦略の一番目は、バックアップ先のメディアの選択です(図2)。信頼性の高さはもちろんですが、十分な容量を確保するという点にも注意して下さい。バックアップを無理なく実行するには作業の自動化が望ましいわけですが、保存先のメディアの容量が不足すると、途中でディスクなどを入れ替える必要が生じ、毎日のバックアップが負担になりかねないからです。

サーバーのバックアップ用メディアとして第一にあげられるのは、DATなどのテープです(図3)。数GBのハードディスクを一度にバックアップできるのは、いまのところテープに限られます。DATなら、圧縮をかけて8GB程度のデータを1本のテープに収めることが可能です。ただ、テープはディスクと違って先頭から順番にデータを読むことしかできないため、一部のファイルを復元するような場合は扱いがやや面倒になります。

MOは640MBタイプの普及で利用しやすくなってきました(図4)。大きなハードディスク全てを1枚に収めることはできませんが、日常のバックアップなら十分でしょう。ディスクは他のメディアに比べて高価ですが、ドライブ自体は多目的に使えますし、信頼性も優れています。

外付けハードディスクにバックアップするのは、高速で扱いも簡単なので、作業の負担は小さくなります。しかし、常に同じメディアにバックアップするのは信頼性の点で問題がある上、コンピュータ本体がトラブルを起こしたとき同時にダメージを受けてしまう危険もあります。

前年度の経理データなど更新の必要がないものは、CD-Rに書き込んでいくというのも良いでしょう。書き換えができない点も、重要な資料の保管にはかえって好都合です。通常のバックアップ用途とは異なりますが、急速に価格も下がってきており、検討に値します(図5)。

そのほか、リムーバブルHD、ZIP、JAZ、大容量フロッピーなど、選択肢は以前に比べて格段に豊富になってきました。これらはサーバー用には力不足の感があるものの、個人のバックアップにはちょうど良い規模のものです。ドライブやディスクのコスト、容量、多目的性などを考え、自分にあったメディアを選択して下さい。

何をバックアップするか

対象も戦略的に考えましょう。ディスク全体をバックアップするほかに、様々な条件でファイルやフォルダを指定する方法もあります(図6)。必要なものだけを選んでバックアップすれば、時間もメディアも節約できます。

OSやアプリケーションはバックアップの対象とはせず、置き換えのきかないデータファイルのみをバックアップせよと言われることが多いようです。一見正しい理屈のように思えますが、実際にはこれらもきちんとバックアップしておくべきでしょう。OSやアプリケーションは普通さまざまな環境設定や登録を行っており、これらをまた最初から構築しなおすのは、気が遠くなるような作業だからです。

ただ、これらは頻繁には変更されないので、必ずしも毎日バックアップする必要はありません。ディスク全体のバックアップは月に1回程度実行することにしておき、毎日行う日常のバックアップセットはデータフォルダだけを選んだものとしておく方法でもよいでしょう(図7)。

また、変更の可能性のないデータはまとめてMOやCD-Rにコピー保管し、日常のバックアップ対象からは外しておけば、バックアップ量をコンパクトに押さえることが可能です。

バックアップのスケジュール

もう一つ重要な戦略がスケジュールです。オフィスのファイルサーバーは必ず毎日バックアップしなければなりません。普通バックアップソフトには時間を指定して自動的に作業を行う機能があるので、毎日深夜に実行するようセットしておくと良いでしょう(図8)。

忘れてはいけない基本として、メディアを毎回取り替えるということがあります(図9)。障害が発生してデータを復旧する場合、もしバックアップ用のドライブも影響を受けていたりすると、バックアップセット自体が破壊されてしまう可能性があるからです。曜日ごとに異なるセットを用意するくらいが理想ですが、とりあえずは二つのセットを交互に使う程度でもいいでしょう。交換したメディアを離れた場所に保管しておけば、より安全です。

ただし、このためにはテープやディスクを交換するという仕事が発生します。これが負担になるようなら、メディアの交換は週1回でも仕方ないかも知れません。データの安全性と無理のない実行をバランスさせる、バックアップ戦略の考えどころですね。

効率的な作業のためには、全内容を毎日バックアップするのではなく、最初に全体をバックアップしておき、それ以降は前回と比べて更新されている内容だけを書き加えていく差分バックアップを行います。こうすることによって作業時間が大幅に節約できるだけでなく、データの更新履歴も残せるので、原稿を3日前の形に戻すなどというわがままも可能になるわけです。差分だけとはいえバックアップデータはどんどん膨らんでいきますから、2週間ごとなど適当なタイミングで、もういちど全体をバックアップし直し、リフレッシュするのが一般的です(図10)。

ネットワークバックアップ

重要な共通ファイルの他に、ユーザーのデータの安全性もきちんと考えたいもの。それには、サーバー上にユーザー領域を用意して、個人のデータもファイルサーバーに保存する方法があります。こうしておけば、サーバーをバックアップするだけで、全員のデータを守ることが可能です。

もう一つの手段として、ネットワーク対応のバックアップソフトを用いて、それぞれのコンピュータを遠隔操作してバックアップすることもできます(図11)。このためには、ユーザーのコンピュータが起動している必要があるので、「システム終了」時に図12のようなダイアログを表示し、バックアップを終えてから自動的に電源を切るといった工夫がなされています。

データの重要さは、それを失って初めて痛感するということが少なくありません。フロッピーにコピーするだけでもないよりは遥かにましですが、わずかのコストを惜しんで後悔することのないよう、もう一度振り返ってみましょう。

(MacFan 1998-04-01号)