ブラームスの交響曲第1番は、1876年11月4日に初演されてから翌77年10月に出版されるまでの間に、数多くの修正がなされたことが知られている。特に大きな変更が、第2楽章の構成の大幅な書き換えだ。この初演版の第2楽章は、ヘンレから出ている新全集版のスコアに付録としてVn1, Vn2, Vaのパート譜とスケッチの断片が掲載されている。さらに、この校訂者であるロバート・パスコール(Robert Pascall)がこうした資料や演奏会のプログラムなどを元に再構成した総譜を、マッケラスとスコットランド室内管が交響曲全集のおまけとして収録しているので、ブラ1の第2楽章が最初どんな姿をしていたのかを音としてもうかがい知ることができる。

この両者を簡単に比較してみよう。まず現在の第2楽章は、およそ次のような形になっている:

  • 最初に弦楽器とFg,Hrでテーマが奏でられたあと、Obに美しいメロディが現れる(ここではRと呼んでおく);
  • 練習番号AからVnが付点の伴奏を伴う綾織りのフレーズを歌い、Bでは弦のシンコペーションの伴奏に乗ってメランコリックな旋律がOb、Cl、低弦と受け継がれていく;
  • Cで経過句のあと冒頭の主題が変形された形で戻り、Dで主題の後半が三連符のフレーズで変奏され、Eに至ってRの旋律がOb, Hr, Vn soloで華麗に歌いあげられて楽章を閉じる。

構成としては、最初の主題部(R含む)、AからBの中間部、C以降の(変奏された)主題部という三部形式になっているわけだ。これに対し、初演版はどうだったか。決定稿の練習番号を使って流れを追うと、次のようになる:

  • まず冒頭主題の4小節が奏されたあとすぐRが示される;
  • Aが少し異なる終結の形で歌われる;
  • (決定稿にはない)冒頭主題の変形を経てD、そしてR(つまり「主部」が戻る);
  • Bが決定稿とほぼ同じ形で;
  • CからすぐEにつながる形で三たび「主部」となって楽章を閉じる。

つまり、こちらはABが「主部」でサンドイッチになるという、一種のロンドの形式を取っていたわけだ。

ブラ1は出版までに9回演奏され、その全てがこの初演版の第2楽章だったそうだ。イギリスでの演奏に使った楽譜が1877年の5月初めに返却されたあと、ブラームスはその月末までに2楽章を改訂したという。聴き比べてみると、初演版もなかなか新鮮だが、やはり決定稿の方が繰り返しがない分、引き締まっているような感じはする。よし悪しは別として、微妙なところで音符の臨時記号が変更されているあたりは、ブラームスがどうやって最終的な音を決めていったかの過程が垣間見えるようでもあり、異版を眺めるのはそういう点でもとても興味深い。

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