ブラ1の2楽章の12小節目と25小節目の弦楽器には、rfという見慣れぬ記号が登場する。CDなどで聴く音のイメージや、字形が似ているのでsfのミスプリントかと思ったりもするのだが、これは音楽事典にもちゃんと載っているrinforzandoという記号だ。事典の定義では《ひとつの音符または和音を急激に強める指定に使われる。実質的にはスフォルツァンドと同義》ということになっている。しかし、全曲を通してこの記号が使われているのはこの箇所だけで、sfはこの楽章も含め何度でも出てくるのに、なぜブラームスはここをわざわざrfなどという珍しい指定にしたのか。《スフォルツァンドと同義》では説明がつかない、謎の記号という感じだ。

ブラームスの交響曲では、rf第2番のフィナーレ(188小節目の2nd VnとVa)と第3番の1楽章(201小節目の全楽器)にそれぞれ1箇所だけ用例があるが、ほかの作曲家の交響曲でこの記号を使っている例にはお目にかかったことがない(後記:サン=サーンスの3番の2楽章第1部で発見)。ベートーベンは、(中)後期の弦楽四重奏でときどきこの記号を用いていて、11番の4楽章、12番のスケルツォ、14番の1、3楽章、15番の1、5楽章といったあたりで登場している。ほかには、シュターミッツなど初期の管弦楽作品で使われていたとか(ここでは短く強いクレシェンドを意味していたそうだ)、いくつかのイタリア・オペラに出てくるという話もあるが、普通のオーケストラの演奏会で取り上げる作品ではほとんど縁のないものだ。

イタリア語の辞書をひもとくと、rinforzareは「補強する、強壮にする、勢いを増す」といった訳語が並び、言葉としては'ri-' + 'inforzare'という構造だから“念押しして強調する”という感じだろう(rinforzandoはrinforzareのジェルンディオ、すなわち動名詞)。sforzandoが's-'という強調の接頭辞+'forzare'で「力をふりしぼる」とか「無理に~させる」という意味を持つのと比べると、もう少し骨太というか、ゆったりした強調ということになるのかもしれない。

ブラームスはベートーベンを強く意識していたわけだから、ブラ1のrfは室内楽的な“ため”という感じを表現したいのだろうか。あるいは、楽章後半で同じテーマが戻ってくるところは普通のfmfになっているのを見ると、冒頭では夢の中に突然割って入ってくるような、軽い驚きの要素を求めているのか。いずれにしても、敢えてこの記号が記されている2楽章冒頭は、ほかとは違うニュアンスが求められているのは確かで、それを何とか自分なりに消化して音にしなければならないということだ。

(※続編の「リンフォルツァンド再び」も参照)

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