SOHOのオフィスネットワークの設計

この春、小規模なオフィスの立ち上げに際して、そのネットワークの構築に携わる機会がありました。新会社のためのネットワーク導入は、サーバーの選定から配線工事、クライアントの設定やソフトウェアのインストールまで、広い範囲の作業を一気に行うことになります。これをスムーズに実現するためには、個別の知識だけではなく、それらが全体としてどう機能するかを考えた設計が必要です。この一連の作業を詳しく見ていくと、オフィスでのいろいろな問題解決のヒントが得られるのではないでしょうか。設計から具体的な作業までを、4回にわたってご紹介します。

まず目的を確認しよう

ネットワーク・情報システムを設計するにあたって最初に必要なことは、その目的の確認です。何となく世間でネットワーク時代と言われているからとりあえず導入するというのでは、無駄が多かったり、あるいは肝心のものが足りないシステムとなりかねません(図1)。

この新会社は、常勤社員2名、非常勤1名、事務アルバイト1名の合計4名から成り、通信・放送関連の企画を主業務とします。外出したり社外スタッフと共同での仕事が多いことから、次のようなポイントをシステム構築の目的として考えました。

  1. 円滑なコミュニケーション
  2. 情報の効率的な共有
  3. 外部の情報の収集
  4. 営業支援ツール

非常勤のスタッフがいたり外の仕事の多い環境では、顔を合わせての打ち合わせがなかなかできません。確実に連絡を取るコミュニケーションツールが、仕事を進める上で不可欠な基盤となります(図2)。

情報の収集や共有も重要な目的です。少人数のオフィスでは、情報力がマンパワーの少なさをカバーする決め手にもなってきます。ネットワークを活用して最新の情報をとり入れ、いかにそれをメンバー間で共有するかがビジネスの成否を左右するようになるのです(図3、4)。

営業支援というのは範囲の広い概念です。この会社では様々な企画のプレゼンテーションが仕事の第一歩になるため、そのための支援環境が必須となります(図5)。また新しい提案を行うために、シミュレーションや事業計画の試算を行うツールも必要になるでしょう。

ここでは、あえて計数管理は目的に加えませんでした。経理業務は基本的に外部の税理士に任せるという方針が立てられていたからです。経営指標の分析は有益ですが、この時点で不可欠なものではありません。可能な部分は外の力を利用し、「ヒト・モノ・カネ」の限られた資源をうまく配分することこそが重要なのです。

もちろん、このような目的設定は会社の業務やその進め方の方針によって異なります。肝心なのは、いきなりコンピュータを買ってしまうのでなく、まず最初に仕事を振り返り、システムの目的を整理してみるということです。

目的に照らして現実的な要件を定める

基本的な目標を定めたら、その内容を実現するための要件を決定していきます。理想だけを追って現実とかけ離れたものになってしまわないよう、実際の場面を想定しながら条件を洗い出すことが大切です。

最も基本的な要件として、コンピュータをどれだけ導入するかという点があります。「円滑なコミュニケーション」という目的を考えれば、一人一台をが理想です。しかし、この会社の場合、社長は年輩で、電子メールを今から学ぶのは楽ではありません。データベースを用意しても、自分で検索して情報を活用できるどうか、ご本人も自信がなさそうです。

そのため、今回はコンピュータは3台とし、コミュニケーションには電子メールと連動したポケベルを併用することにしました。これなら、必要最小限の連絡はリアルタイムで取れるので、第1の目的にも反しません。

ここではリテラシー(使いこなし)のための教育コストと、その効果の比較検討が問題になっています(図6)。経営指標の分析が目的ならば、社長にもコンピュータを学んでもらう必要がありますね。

情報の時差を小さくする

いまやインターネットは情報収集・伝達の両面において不可欠な要素となっていますので、これを導入することは今回のネットワーク構築の大前提です。考えどころは、ダイヤルアップ接続にするか、専用線サービスを利用するかというところ。OCNを利用しても、常時接続には毎月それなりのコストがかかります。たまに使う程度ならダイヤルアップで十分です。

結論から言えば、これは迷うことなく常時接続を採用することにしました。ビジネスにおいてすぐに連絡がつくということは、とても重要です。営業用にはオフィスの電話より携帯電話が好まれるというのは、これを端的に示しています。電子メールも、業務のコミュニケーション手段として利用するなら、即座に対応が可能なリアルタイムの接続が不可欠です(図7)。

情報を得るという面についても、ダイヤルアップでは時間が気になっておちおち検索もしていられません。インターネットの活用を考えるなら、常時接続を導入すべきなのです。

4人という少人数での利用なので、この会社ではOCNエコノミー(128Kbps)を申し込むことにしました。グラフィック満載のホームページを提供しようというのでなければ、コミュニケーションや情報収集はこれで十分でしょう。

メンテナンスを考える

小規模オフィスでのシステム導入に当たって考えなくてはならないのが、メンテナンスの方法です。少数精鋭のSOHOでは、システム専門要員を置くわけにはいきません。かといってメンバーが片手間に運用するのでは、余計な負担がかかるうえにトラブル対応もままならないでしょう。

メンテナンスは外部に委託するのが現実的です。定期的な保守契約、あるいはトラブル時の出張修理など、必要度とコストによってオフィスに適したサービスを選びましょう。システムの設計によっては、日常のメンテナンスは遠隔操作で行うようにすることも可能です。

どのような方法を採るにせよ、トラブルは少ないに越したことはありません。初期コストを押さえた結果、全ての問題処理を自分たちで行うことになり、結局、時間やデータのロスを考えると高くついてしまうこともあり得ます。費用はメンテナンスを含めた中期的な観点で比較すべきです(図8)。

実際の設計

以上のような要件を確認した上で、具体的なシステムの選定を行います。大きなポイントは、ユーザーのマシンをマッキントッシュで構成するのか、Windowsにするのかという選択です。これについて書き始めると切りがないのですが、ここでは当然マッキントッシュが選ばれたとして話を進めましょう(何千というユーザーを管理するトップダウン型のシステムの場合などWindowsの方が有利なケースもあります)。

次に、サーバーを考えます。マッキントッシュだけのネットワークならAppleShare IP 5.0で十分ですが、インターネット接続、メンテナンス、拡張性などを考えると、Windows NT、UNIXも検討してみたいところです。逆に社内にはサーバーを持たず、全て外部のものを利用する方法もあり得ます(図9)。

Windows NTは、セキュリティや安定性にまだ不安があるということで、今回の候補からは外れました。UNIXは信頼できるOSですが、かなり専門的な知識が必要になります。小規模なオフィスなら、専用のサーバーを置かず、MacOSの機能だけを使ったネットワークでも用が足りるかも知れません。

いろいろ考えた末、サーバーにはフリーのUNIXであるLinuxを採用することにしました。この優れたOSは無料で入手できる上に、安価なPC互換機で十分働きます。導入後のメンテナンスも外部から遠隔操作で可能です。インストールには専門家の支援が必要ですが、維持費も含めたトータルコストはかえって安くつくと考えられます。

内部のネットワーク

UNIXサーバーとそれぞれのマッキントッシュは、10Base-TのEthernetで接続します(図10)。EthernetアダプタはPoweMacには標準で用意されていますから、今後のネットワークでLocalTalkを選択するケースは少なくなっていくでしょう。逆にこれからはさらに高速な100Base-TのEthernetが普及してきますが、今回は、必要な性能とコストを考え、ポピュラーな10Base-Tを使うことにしました。新しいオフィスの開設と同時にネットワークを構築するので、ケーブル関係の工事はレイアウト業者さんに一緒にやってもらう予定です。

情報共有といえば、ファイルサーバーの利用がすぐ頭に浮かびますね。UNIX上でAppleShareをエミュートするソフトを走らせる手もありますが、ファイルサーバーについては自分たちで簡単に設定を変更できる方が便利のような気もします。今回は予算上、サーバー専用のマッキントッシュを追加購入するゆとりはないので、標準の「ファイル共有」機能(図11)を基本としながら、UNIX上のAppleShareソフトを合わせて用いることにしました。

インターネット接続

最後の準備はインターネット接続のためのOCNの手続きです。申込用紙をインターネット上で請求するかNTTの窓口で受け取り、必要事項を記入して申請します(図12)。

新設会社のドメインも合わせて取得し、会社名のメールアドレスを使えるようにしようとしたところ、思わぬ壁にぶつかりました。JPNICにドメインを申請するには、会社の登記簿謄本が必要です。ということは、会社設立前にOCNの手続きを済ませておき、登記が完了したらすぐにインターネットを使い始める、ということは事実上不可能なのです。OCNの手続きには申し込んでから1カ月ほどかかります。この問題をどうクリアするか、次号までの宿題ということになりました。

今号では、新会社のシステムの目的を定義し、そのために必要な要件を洗い出し、その結果、UNIXサーバーとマッキントッシュのネットワークをEthernetで構成すること、インターネットにはOCNで接続することまでを決めました。次号からは、具体的な機種の選定に入ります。

(MacFan 1998-04-15号)