“モダン楽器による初の新全集版ベートーベン”と銘打ったCDがディビッド・ジンマン指揮のトーンハレ管弦楽団の演奏でリリースされている。5番と6番の組み合わせが昨年末に出て、最近また7番8番の組み合わせが登場した。モダン楽器と聞いて躊躇していたのだが、何せ国内盤でも1000円という破格の値段だから、だまされたつもりで2枚とも買ってみた。いや、これがまた面白い。グラモフォン誌が「新発見には興味があるが古楽器の音がいやだという人にはお勧め」と書いているように、モダン楽器でもこれだけ新しい演奏ができるというのは新鮮な驚きだ。新全集による違いなんて、楽譜と睨めっこしながら聞かなければ分からない程度のもんだという人もいるようだが、違いは随所にはっきり表れている。そのうえ、楽譜の違いを超えて、ジンマンの演奏ははつらつとして、シャープで説得力がある。オリジナル楽器演奏の成果を十分取り入れた、ベートーベン演奏の新しい方向を示していると言っても過言ではないだろう。この演奏が1000円で手に入るのだから、アルテ・ノヴァは拍手ものだ。続編が楽しみ。
意外にもこのCDはレコ芸の特選盤になっていたらしい。また、ベーレンライター版のスコアは5~7番についてはまだ出版されていないので確かめようがないが、必ずしも校訂者の意図通りには演奏していないのではないかという意見もあって、聴いている人はよく聴いているもんだと感心した次第。