先ごろ出版された『転換期の音楽』(2002,音楽之友社,ISBN:4-276-13907-4)は、角倉一朗氏の古希記念として、38人の執筆者によるいろいろな論文を集めたもの。その中で、最近調べていることとの関連で目を惹いたのが、土田英三郎の「〈2つの交響曲〉再考」と星野宏美の「メンデルスゾーンの《交響曲第3番イ短調》の楽譜資料」の2つだ。
土田論文は、「ベートーヴェンは第九の声楽付きフィナーレに迷いを持っていた(失敗とみなしていた)」「第九と並行してもうひとつの交響曲が作曲されていた」という説に対し、ニコラス・クックの最近の研究を踏まえて検討を加えるもの。星野論文は、“「スコットランド」は1830年前後にいったん着手されたあと10年のブランクがあり、1841年に作曲が再開され完成した”という従来の説に対して、原典資料調査に基づいて1830年代にも作曲が続けられていたことを反証する試み。いずれも15ページ前後の短い論文だが、なかなか面白い問題提起をしていて、読み応えがある。
記念論文集といえば、海老沢敏氏の古希記念として昨年出版された『モーツァルティアーナ』(2001,東京書籍,ISBN:4-487-79733-0)もある。こちらは海外からの寄稿も含めた56論文と豪華な構成で、その分ひとつひとつが短くなって物足りない感じもある。イングリット・フックスの「モーツァルトの《ピアノ協奏曲ニ短調》K.466 その自筆譜と初演楽器について」とか吉成順の「《アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク》K.525の成立を巡って」など、面白い論文もあるんだけど。
こういう論文集は、普通なら手を出さない分野の研究にも触れることができて有益ではある(が、それぞれ7800円、5500円というのは、高いよな)。星野論文の元となった博士論文は、『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』として音楽之友社から出版されるらしい。