ようやく季節も移り始め、今朝は車の窓を開けて走ると爽快な気分。こういう日に、あまり交通量の多くない並木道を、ベートーベンの弦楽四重奏曲第14番を大音量で鳴らしながら疾走するのは、ミスマッチな感じもするが意外に気持ちがいい。イタリア四重奏団の明るい音色だと、より雰囲気がぴったり。

朝っぱらからこんな事をしていたのは、ほかでもない、今日のアンサンブル花火第5回演奏会のメインがこの嬰ハ短調作品131だったからだ。コルンゴルトとかシェーンベルクとかショスタコとか一風変わったレパートリーで攻めてきた花火が、今回は一転してベートーベン(a.k.a.ベートーヴェン)をメインに据えた。その成果は如何に。

ベートーベンの後期四重奏はいうまでもなく難曲で、そのチェロパートを(一部は編曲しているとはいえ)ベースで弾くのは相当無謀な試みである。初期の練習では楽譜を前に呆然ということもしばしばだった。それでもぎりぎりで何とか形になって、本番では、交響曲では接したことのない、少し異なる次元のベートーベンを弾いているという感覚が得られたかな(多少の事故やミスは、仕方ないとして)。カルテットの緻密で軽やかな音楽とは違う、かといってバーンスタイン/VPOのようなゴージャスな音塊でもない、何というか豊かでおしゃべりなベートーベンがあってもいいんじゃないかと思ったり。

この曲とは逆に、ベースは休みだらけで数えるのが大変なのにほかのパートが必死の思いで弾いていたのがマーラーの10番(1楽章アダージオ)だ。Vn=8パート、Va=3パート、Vc=3パート+Cbという編成でどこまでマーラーの響きを出せるかというチャレンジだが、なかなか素敵な出来だった。Vaをはじめ、各パートすごいよ。クック版だけでなくカーペンター版、フィーラー版、マゼッティ版と各種聴き比べてみたりして、この曲をいろいろ吟味するきっかけにもなった。

前プロのホルストは、花火がこのところ連続して取り組んでいるイギリス音楽シリーズ。親しみやすい民謡のメロディだし、演奏効果も上がるように書かれているので、楽しく演奏できた。アンコールにはバッハのBWV225の編曲版。1週間前に急遽配られたにしては難しい曲だったが、久しぶりにバッハを弾くことができて、これも思わぬ収穫だった。

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