今度はベートーベンの1番をベーレンライターの新原典版で演奏することになって、面白いと同時に不可思議なところもあるので、他の楽譜も参照してみる。1番のブライトコプフ新版はまだポケットスコアで出ていないようだが、もうひとつの批判校訂版であるヘンレ版(これは逆に、多分1番と2番しか出ていない)を購入して少しずつ見比べてみたり。やっぱりいろいろ違うものだ。
たとえば、指揮者はpの中でのsfとfでのsfを区別するようにと言う。それはもちろん結構。そこでややこしいのが、2楽章の73小節目あたりから2小節ごとにでてくる記号だ。ベーレンライター版では、不思議なことに、1st Vnのみがsfpで他の弦楽器やファゴットはfpになっている。指揮者が「ここはpの中のスフォルツァンドだから、ソフトに」と指示するので、「1st Vn以外はフォルテピアノだけど、どうするの?」と尋ねたら、「他のパートはフォルテピアノでいい」と言うのだ。本当かなあ?
そう思ってヘンレ版を見ると、ここは全パートfpになっている。ベーレンライター版のつくりからして、おそらくベートーベンの自筆譜でも1st Vnのみがsfpなのだろう。ヘンレ版はブライトコプフ新版と同様、合理的な解釈で統一していく方向らしい。ちなみに、(おそらく旧ブライトコプフに基づいた)音友のスコアでは、全パートがsfpになっている。
まあこんな具合だから、ベーレンライターを使えばそれでいいというものではなくて、楽譜を出発点にしてきちんと自分で考えなくちゃいけない。池田卓生氏によれば、ウィーン楽友協会のオットー・ビーバー博士は
「なぜ多くの指揮者がベーレンライター新版を買うだけで満足せず、自分のところに自筆の楽譜を見に来てくれないのか」と嘆く。アーノンクールやノリントン、ラトルは来るが、「オザワはまだ」。
とのたまわったそうだ。アマチュアはせいぜい複数のスタディスコアを買う程度しかできないが、プロの指揮者なら、ベーレンライターのブランドだけで満足していいわけがないぞ。(2002-04-19)