以前、BSで放送されたりLDとして発売されていた、ノリントンとシュトゥットガルト放送響によるモーツァルト交響曲39番のリハーサルの様子が、DVDとして登場した。1996年のシュヴェツィンゲン音楽祭の時の映像だから、ノリントンがこのオーケストラの首席になる前の、いわばお見合いの時期のセッションということになる。
このリハーサルを見ていると、ノリントンがいかにしてあの生き生きとした音楽を作っていくのかがよく分かるし、素人演奏家としても参考になることが多い。例えば1楽章では、音符をどんなアーティキュレーションで、どう表現するかについて、きめ細かな注意が求められている場面がある:
スタカート、何もなし、ポルタート、スラー、大切なのは、これらを区別して正確に表現することがです。
これでは退屈です…演奏から常に動作が感じ取れるように。庭の動かない石像ではダメです。
2楽章では古典派音楽での「ロマンティック」な表現について:
このアンダンテ楽章で目標にしたいのは、古典派のマナーというか形式を踏まえて、内に秘めた感情をうまく表現することなんです。バロックやロマン派より、私はむしろ古典派でこの点を重視しています。直接耳に届く音楽の姿と、内在する感情のバランスの問題ですね。モーツァルトやハイドンの交響曲の終結部には、「古典派の枠を越えた感情表現」がよく見られます。そういう部分は少しテンポを落とせるのですが、楽章の最初から遅いテンポで歌いすぎると、感情が出過ぎて古典派の形式の枠が崩れます。音楽の終点から始めたら、目的地がなくなります。
私はこの問題を特に古典派作品のアンダンテとアレグレット楽章で重視します。古典主義の特徴である簡潔性を後回しにすることになっても、形式の枠を越えて、時には冷淡に、また時には激情的にも演奏できる…アンダンテ楽章にはその微妙な境界線が最も多く含まれるのです。
4楽章では、前打音の奏法を取り上げて、丁寧に繰り返し練習している:
前打音(アポジャトゥーラ)は大切です。「アポジャーレ」の意味はご存知ですよね? それは、「傾く」です。ピサですね。ピサの斜塔ですよ。次の音に向かって傾かなくては…さらに前打音の次の音はより軽くします…当たり前の音ではなく、一癖ある音が表現のカギになります…
こうした話を、ユーモアたっぷりに、身振りを交えて伝えていく。シュトゥットガルトの奏者たちも納得しているようで、だから彼らのサウンドが変わっていくわけだ。一応ステレオで本番の演奏会も収録されているが、録音はあまりいいとは言えない。だから音楽を鑑賞するにはそれほどお奨めとはいいにくいものの、演奏する人なら、このノリントンのリハーサルは見て損はない。