ちょっと些細な話をひとつ。

Ralph Vaughan Williamsについて何か書こうとする場合、その名前をどうやって表記するかでいつも迷ってしまう。それが煩わしいこともあって、RVWと略記することが多かったのだが、来年ノリントンが来日して第6交響曲を演奏するので、ここらでひとつすっきりさせようと、あれこれ考えてみた。どうでもいいような話とはいえ、検索する場合などはこの表記の違いでヒットしなかったりするケースもあるわけで、気になっていた点を整理しておくのも全くの無駄ではなかろう。

まず、お約束のRalphの方から。一般的な英語(米語)読みでは「ラルフ」だけれども、RVWの場合は「レイフ」と読む。古いスタイルの英語ではこう発音するのだそうで、RVWは「ラルフ」と呼ばれるのを嫌ったと伝えられている。海外のRVW関連サイトや、古い英語の発音を紹介するページなどでよくとりあげられている話で、いわばFAQだ。まぁ実際は、省略して姓だけを書くことが多いから、これはそれほど問題にはならない。

名字のVaughan Williamsは一見悩む必要がなさそうだが、結構ばらつきがあるのが「ウィリアムズ」か「ウィリアムス」かというところ。英語の発音としては、有声音mに続くsだから本来は「ウィリアムズ」となる。ところが、外国語を日本語に取り込む場合、newsを「ニュース」と書いたり、Tigersを「タイガース」と読んだりと、語尾を濁らない形にしてしまう場合が少なくない。これらと同様、「ウィリアムス」のほうが日本語としては読みやすい感じなのか、こちらの表記もけっこうよく見かける。

もう一つややこしいのが、「ヴォーン」と「ウィリアムズ」をどうつなぐかという問題だ。外国人名をカタカナ表記する場合、姓と名は「・」で区切るというのが一般的だが、Vaughan Williamsのような複合姓(compound surname)の表記はどうもはっきりしない。例えば国会図書館の書誌データ作成規則(1987年版)を見てみると次のような具合になっている。

外国人名のカタカナ表記は、イニシャルにはピリオド(.)、姓名の間は中黒(・)を付して記録する。それ以外の、複合姓や名前が複数付いているときなどの区切り記号は表示のままとする。

【責任表示】ジャン ポ-ル・サルトル著 (情報源の表示:ジャン ポール-サルトル著)

【責任表示】ジャン=ポ-ル・サルトル著 (情報源の表示:ジャン=ポール サルトル著)

要するに一般ルールはないというわけだな。Saint-Saënsのように、原語にハイフンが入っている場合は、サン=サーンスと「=」を使ってつなぐことが多い。しかしRVWの場合は、The Ralph Vaughan Williams pageにも示されているとおり、ハイフンなしが正式なのである。

The composer's surname is Vaughan Williams, though following family precedent, it is not hypenated.

使える表記としては、さしあたって(1)ヴォーン ウィリアムズ、(2)ヴォーン=ウィリアムズ、(3)ヴォーン・ウィリアムズ、の3通りだろう。(1)は原表記に忠実ではあるが、「レイフ・ヴォーン ウィリアムズ」と姓名を続けたときに、姓と名の区切りより複合姓のほうが分離して見えてあまり具合がよろしくない。(2)は複合姓であることが明確だが、Vaughan-Williamsとハイフンがある姓のように思える(実際、ハイフンを入れて表記している英文も少なくないのだが)。(3)は素直ではあるものの、「ヴォーン・ウィリアムズ」と姓だけを記述した時に、「ヴォーン」がファースト・ネームだと思われかねない。やれやれ、どれも一長一短なのだ(手元の書物を見比べると、ヴォーン・ウィリアムズが優勢か)。

このほかにも、「ヴォーン」じゃなくて「ボーン」だとか、「ウイリアムズ」と「イ」を大きく書くとかいう話まで含めると、この作曲家のカタカナ表記は、名字だけでも24通りほどできてしまう。

さて、これらを総合してRVWをどうやって表記するか。正解があるわけではなさそうだが、ここでは「レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ」を採用しておくことにしよう。あるていど原音に近く、かつ名字が複合姓であることを明確に示すというのが、いちおうの理由だ。もっとも、このサイト内でも、違う表記で書いた文書が出てきたりするかも知れないのだが……。

いやはや、まったく些細な話で、失礼。

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