シューベルトには、断片だけだったり、スケッチがほぼ終わりつつ最後の仕上げがなされなかった6つの「未完成」交響曲があることになっている。これらの音を聴くために、ニューボールト(Brian Newbould)による補筆・完成版を収録したマリナー/ASMFの「シューベルト交響曲全10曲」を買ってみた。このコンビに大枚をはたくのはなぁと躊躇していたのだが、ちょうどクーポンがたまったので、まあいいかと。合わせて、ロ短調D.759の《未完成》を同じくニューボールトの補作を使い4楽章版として演奏している、マッケラス+OAEのCDも購入。これらの曲が予想外に面白い。マリナー/ASMFの演奏も、「未完成」交響曲に関しては、十分聴ける。
D.759《未完成》の第3楽章は、ピアノスケッチが120小節あまり、それに総譜が20小節ほど残されていて、これをもとにニューボールトが補作、オーケストレーションを完成させたもの。2つの楽章のあとに持ってくるには確かに役不足かもしれないが、5番あたりの第3楽章(あれはメヌエットだけれど)程度にはシューベルトらしさがあって、そんなに悪くない。しかし、第4楽章にロザムンデの間奏曲を置くのは、調性や管弦楽の編成が一致してロンドン初演時に採用されたからとはいえ、興ざめ。
D.729は、旧目録では交響曲第7番と正式な番号まで与えられていた(新目録では番号なしに格下げ)。それ以前の曲と違って、ピアノスケッチなしで直接総譜が書かれているが、全曲1300小節ほどのうち、約950小節は旋律のみ(一部はバスや他のパート付き)に終わっている。総譜はHr4本とTrb3本を用いた大きな編成になっているものの、内容はロッシーニ的な雰囲気の残るむしろ素朴な味わいの作品。曲の骨格はシューベルトが残しているので、ニューボールトのほかワインガルトナーなどもオーケストレーションを試みて演奏している。一聴の価値あり。
D.936A(いわゆる10番)の第1楽章は、(ニューボールトによる構成では)アレグロの中に何度かアンダンテの部分が挿入されるなど従来にない新しさもあるが、曲としてはあまり面白くない。第2楽章は、これだけ単独で演奏されたりもする抒情的な曲で、マーラーの歌曲を先取りしているという見方もあるらしい。第3楽章はスケルツォのようなフィナーレのようなちょっと中途半端なものになっている。対位法への取り組みが目立つが、まだ十分消化しきれないまま未完成に終わったという感じだ。
マリナー盤には、D.615とD.708Aの断片も収録されている。これもニューボールトによる復元だが、シューベルトが作曲を中断したところで演奏も終わりとなっていて、唐突で驚くもののある意味では潔い。D.708Aのスケルツォは秀作。