聖響さんのベートーベン交響曲シリーズがいよいよ発売となった。まず2番と7番の組み合わせから。演奏はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)で、写真で見ると弦の編成は8-8-6-4-3。石川県立音楽堂で今年2月に録音されている。
一聴してすぐ感じるのは、小さな編成による見通しの良さというか音楽の透明感だ。このところ熱心に取り組んでいたピリオド・アプローチ(HIP)の成果も十分盛り込まれており、バイオリンの素直な音色と緻密なアーティキュレーションは特筆もの。木管のブレンド具合もいい感じだ。金管は魅力的なところと、もっと突っ込んで欲しいというところが半々ぐらいか。新規導入したというバロック・ティンパニは、さすがに良い音色だが、録音のせいか期待したほどの衝撃性はなかった。最初は、低音に切れがないのとスフォルツァンドでやや音が濁るのが気になったのだが、別の装置で聴き直したらそうでもないので、この辺りは保留しておく。
音楽の組み立ては、強い自己主張をするというよりも、個々のフレーズや音を大切にしながら、丁寧に全体をまとめていくという姿勢が伺える。小編成ということもあって、いろいろなパッセージがくっきりと浮かび上がっており、構造というか音の仕掛けがよく分かる演奏だ。テンポはHIP流だが快速急行というわけではなく、音色などほかの要素とも合わせ、何というか、肌理細やかなベートーベンになっている。それは迫力やダイナミックさに欠けるということじゃなくて、勢いだけで突っ走らずに、クライマックスでも冷静に音楽の手綱を操っているという感じなんだけどね。
ピリオド演奏を意識したモダン楽器の室内オーケストラによるベートーベンといえば、先月Naxosから発売されたミュラー=ブリューゲルとケルン室内o.(写真を見ると、OEKよりもう一回り小さい編成のようだ)の1/2番も同様だ。比べてみると、ケルンはビブラートもしっかり使って“流麗な”響きを指向しているのに対し、金/OEKの方がより室内楽的に、素直で繊細な音づくりをしている。個人的には、ラトルやノリントンのように、エロイカに連なる革新性を見てそのエネルギーを引き出す方向のほうが、2番へのアプローチとしては面白い。が、こういう瑞々しい(ロマンチックなのではなくて)タイプのベートーベンもまたいいと思う。
7番は、よりのびのびしたいい演奏だ。第1楽章の主題がいったんフェルマータになるところ(88小節)で、全くポーズをおかずにffに入っていくのは、細かい工夫だがなかなか新鮮。昨年の第九のフィナーレで、'vor Gott'の長いフェルマータのあと間髪を入れずにalla marciaに飛び込んでいったのを思い出して、ニヤリとさせられる。
宣伝のうたい文句はなかなか勇ましいが、それに恥じない演奏と言えるだろう。今後の期待も込めて、推薦。
(8月登場のエロイカも参照)