情報の命綱、バックアップ

つい先日、私の身近な会社で、ロータスノーツを使ってあらゆる情報を管理していたサーバーが壊れてしまいました。そこはきちんとバックアップをとっていたのですが、バックアップテープからデータを復元しようとすると、ドライブの障害でそのテープも破壊されてしまいました。ジ・エンドです。数年間の蓄積が、一瞬にして消滅してしまったのです。これは決して遠い世界の話ではありません。トラブルはいつやってくるかわからないのです。

バックアップのすすめ

オフィスのコンピュータ化が進んでくると、重要な書類がどんどん機械上のファイルとして蓄積されてきます。「ペーパーレス」のかけ声とともに、紙の書類は片っ端から廃棄して、データベースに置き換えるということも多くなるでしょう。スペースは節約できるし検索も(うまく保存すれば)簡単。結構ずくめの話ですね。

さて、その大切なデータはきちんとバックアップされていますか? ネットワーク編の第1回でも書いたように、ファイルサーバーを設置して情報を集約すると、それだけ危険も集中してきます。バックアップはとても重要なことなので、ここで改めて焦点を当てて、その考え方を整理しておきましょう。

バックアップはとにかく万一に備えてのものですから、通常では考えにくいことも想定しておかなければなりません。かといって、あまりに大がかりな計画を立てると、手間がかかりすぎてつい後回しになってしまう恐れもあります。バックアップを上手に、かつ確実に実践するには、データの重要性と作業のバランスを考え、適切な戦略を立てて実行することが大切です。

話を分かりやすくするために、実際のバックアップソフトRetrospect(図1)の作業に沿って戦略の立て方を考えてみましょう。ここでとりあげるのは、対話形式によりバックアップの方針を設定してくれるEasyScript(図2)という機能です。

バックアップのメディア

まずEasyScriptでは、バックアップ先のメディアを選びます(図3)。ここでは大きく分けてDATなどのテープとMOやZIPなどのリムーバブルカートリッジが選択対象になっています。

テープメディアは高速、大容量で単位データあたりのコストが安いというメリットがあります。一方で、任意のところを読み出すにはカセットテープと同じように最初から順番にテープを送る必要があるため、個々のファイルを復元するには手間がかかります。

リムーバブルメディアの選択肢は、最近急速に広がってきました。人気上昇中のZIPのようなメディアは手軽で個人的なデータを保管しておくには便利ですが、メディアの耐久性という点からは、重要なデータの長期保存には不安が残ります。MOはコスト、スピード面ではハードディスク系に譲りますが、信頼性に優れています。

これらの中から、安全性、効率、コストの兼ね合いでメディアを選ぶわけです(データが重要なほど安全性のウエイトが高まります)。また、深夜に自動バックアップさせるためには、途中でメディア交換の必要がないよう、十分な容量を持ったものを選ぶことも忘れないでください。

バックアップ対象を選ぶ

EasyScriptはバックアップ対象として全てのファイルを選択します(図4)。解説書では「アプリケーションやシステムのようなオリジナルセットから復元できるものは特別にバックアップしなくても良い」とされることが多いのですが、これらを最初からインストールし直すのは実は大変な作業です。さらに実際にはユーザーによる設定ファイルやシリアル番号などの情報は、復元に手間がかかったり不可能だったりすることもあります。ですから、EasyScriptではこれらも含めた全てのファイルをバックアップ対象としているのです。

もちろん、全てのファイルを毎日バックアップするのは時間の面でもスペースの面でも効率的ではありません。EasyScriptの「標準バックアップ」は、前回のバックアップ以降に新規作成あるいは更新されたものだけをバックアップセット(ここではStorageSetと呼ぶ)に追加していく更新(差分)バックアップという方法をとっています。後で見るように、定期的に全体をリフレッシュして新規のバックアップを作成し、次のリフレッシュまでは更新バックアップを行っていくのです。

この方法を採用すると、バックアップが効率的になるだけでなく、書類のバージョン管理も可能になります。毎日の更新分を追加していくわけですから、たとえば原稿を3日前の姿に戻したいというわがままも通りますし、間違えてレコードを削除したまま何日も気付かないでいたデータベースをさかのぼって復活させるということもできるのです。実際バックアップには、緊急時以外にもこういう形でよくお世話になっています。

メディアを取り替える

EasyScriptは次にバックアップの頻度を尋ねます(図5)。オフィスのバックアップでは、もちろん、毎日のバックアップを選択しましょう。多くの人がいろいろなファイルを扱うオフィスではいつどんなファイルが作成・更新されるかは予測できませんから、必ず毎日バックアップすること。

次のメディアのローテーションは、注意しておきたいポイントです(図6)。ハードウェアトラブルによってデータが失われるようなときは、接続しているメディアドライブも障害を受けている可能性があります。これに気付かずにファイルを復旧しようとして、バックアップセットを装置に差し込んだら? こういうときに、予備のバックアップがあれば、まだ他の機械で復元するという手段が残されていますね。バックアップセットは複数作ることが重要です。必ず複数のセットを交互に使い、危険を分散するようにしましょう。

メディア交換の頻度は、毎日が理想的ではありますが、これはかなり煩わしいものです。普通は週に一度の交換で十分だと思いますが、逆にこれだとうっかり忘れてしまう恐れがあるなら、毎日に設定して朝一番の儀式としてください。

また、どの方法を採用するにしても、同じディスクやテープをあまり長期にわたって使うと、バックアップメディア自体がエラーを起こして意味をなさなくなる恐れがあります。新しいものに交換するタイミングは一概に決められませんが、一年ごとに新しいものに取り替えて、古いセットは一年間の活動を記録した保存版として残していくという手もありますね。

詳細設定と自動実行

ここまでの設定で、EasyScriptは図7のように「平日に2つのStorageSetを毎週交互に使用し、3週間毎にStorageSetをリセット」するというバックアップ戦略を立ててくれました。したがって、一つのバックアップセット(StorageSet)は、6週間ごとにフレッシュなバックアップセットになるというわけです。このセットに名前を付けて保存すると(図8)、自動バックアップを行うスクリプトが作成されます(図9)。

EasyScriptで作成したバックアップスケジュールでも十分な働きをしてくれますが、それそれのニーズにあったより細かいオプションの設定も可能です。

例えばEasyScriptの設定はディスク全体を一括してバックアップするというものでしたが、サーバーのファイルを種類に応じてフォルダに分類し、それぞれのフォルダを「サブボリューム」として別々にバックアップすると、より効率的な作業ができるようになるでしょう(図10)。

システムファイルやアプリケーションのような、一般に「バックアップ不要」とされているファイルは、別のサブボリュームとして、月に1回だけのバックアップを設定するという方法があります。また、過去の経理データなど、変更されないデータも、繰り返しバックアップする必要はありません。これらは通常のバックアップ対象とはせずに、独立したフォルダにまとめた上で、CD-Rなどに書き込んで安全な形で保管するほうがよいでしょう。このサブボリュームを、ユーザーに公開するサーバー上のボリュームと対応させておけば、分かりやすい管理が可能になります。

他にもRetrospectは、ファイルの種類や修正日などに応じてバックアップ対象を選ぶなど、様々な設定が可能です(図11)。もっとも、バックアップが苦痛にならないということが大切ですから、あまり細かい設定にこだわる必要はありません。

設定は終わったけれど、誰がこれを実行してくれるんだって? Retrospectの場合は、インストール時にRetro.Startupというファイルを機能拡張フォルダに作成します。これがスクリプトの実行を監視し、必要なときにRetrospectを起動してバックアップを行うのです(図12)。あとは再起動してこの機能を有効にするだけ。これで、管理者は安心して眠ることができるというわけです。

(MacFan 1997-01-30号)