アプリケーションを選択する

全体設計とハードウェアが固まったら、こんどはソフトウェアを選んで行きます。バンドルソフトや著名ソフトが揃っているので適当でよいと思うかも知れませんが、実はそうでもありません。ソフト選定は業務の内容把握と密接に関連しているのです。

目的に合わせたアプリケーションの選択

前号までで基本設計とハードウェアの選定が完了しました。今号は、コンピュータの箱に魂を入れるソフトウェア選びです。

多くのコンピュータには「バンドル」という形でいろいろなソフトがあらかじめ付属してくるので、改めてここでソフトを取り上げる必要はないと思われるかも知れません。しかし実は、ソフトについて考えるとき、私たちはコンピュータシステムでどんな業務をこなそうとするのかを、具体的に吟味することになります。このソフトを確認する過程で、最初の設計のときに見逃していた重要項目が無いか、再チェックすることにもなるのです。

さらに、実際の業務遂行にあたっては、どんなドキュメントを作成し、そのアウトプットをどのように活用したり蓄積するかという、さまざまな仕組みやルールを作っていきます。ソフトの選定は、この業務手順と切り離すことができません。つまり、システムの目的の定義や、仕事の中身の分析ができていなければ、ソフトは選べないということです。

これまでしつこいほど設計や業務分析の重要性を強調してきましたが、これが不十分なために無駄な投資をしたり、役に立たないシステムになってしまった例は枚挙にいとまがありません。プロジェクトの大小を問わず、最初の段階にきちんと時間をかけて考えることが成功の秘訣なのです。

安上がりだからと単純にバンドルソフトでよしとしたり、みんなが使っているからと著名ソフトを自動的に購入するのではなく、システムの目的に沿って、必要なソフトは何かを見ていくことにしましょう。

コミュニケーションのためのソフト

この会社のシステム構築の第1の目的は「円滑なコミュニケーション」でした。このために用意するべきソフトは、何と言っても電子メールです。

98/3/1号でも取り上げたように、ビジネス用の電子メールについては、情報の仕分けや転送の機能に注目しましょう(図1)。これらの自動処理を利用すれば、電子メールは秘書にも相当する働きをしてくれます。もちろん定期的にサーバーをチェックする機能は必須です。せっかく電子メールを使っても、届いたことがわからないようでは値打ちが半減してしまいます。

メッセージの検索機能や保存方式も注意しておきたいところ。メールの受信簿は、ある種の業務日誌のような性格を持ちます。以前どんな取引があったかをきちんと調べるには、分類保存とともに検索機能が欠かせません。また、メッセージがテキスト形式で保存されていれば、イントラネットやデータベースなどへの応用が簡単になります(図2)。

電子メールソフトはバンドル版やフリーのものもありますが、業務で使う重要度を考え、製品版も含めて以上のような点を検討してみてください。

情報収集のツール

今、情報収集と言えば、何と言ってもインターネット上の膨大な情報の活用がテーマです。このためにはブラウザをはじめ、FTPやArchieといったお馴染みのインターネットツールを用意します。これらのほとんどはフリーか、わずかのシェアウェア料金で利用できますから、入手が簡単な上、導入のコストも問題になりません。

多くの場合、ブラウザはあらかじめマッキントッシュにバンドルされているので、すぐに使いはじめることができます。次々に新しいバージョンが登場してきますが、純粋に情報を集めるという点では古いものでも十分役立ちます(図3)。

電子メールはコミュニケーションだけでなく情報収集ツールとしても重要です。いろいろなニュース配信サービスがありますし、個人的に送られてきた案内や参考メールも、きちんと整理すれば貴重な情報源になります。

新聞記事などパソコン通信を通じて提供される外部データベースを利用するには、通信ソフトも必要です。OCNエコノミーで接続している場合、ダイヤルアップを前提とした通信ソフトは使えないので、Telnet経由かパソコン通信の専用ソフトを使うことになります(図4)。今後はおそらく、これらのサービスもWebブラウザ経由で利用できる環境が整っていくことでしょう。

情報を共有するためのソフト

情報を集めたら、次はその共有です。

情報の共有を考える場合、全員が情報を追加したり修正したりするのか、それとも入力・更新は特定の人が担当し、一般には内容を参照するだけなのかでその形態が違ってきます。また、情報は素材として利用し、最終的には各人が独自に加工してアウトプットするのか、あるいは定形のフォーマットでの出力が求められるのかも考慮しなければなりません。

データベースは定型的な大量のデータを扱ったり、複数の人が利用・更新する環境で内容が矛盾しないように管理したり、同じデータを一覧表や宛名ラベルなどさまざまなフォームで出力したりするような時に威力を発揮します。数多くの顧客を抱えていろいろなスタイルの案内状を発送したり、さまざまな商品を扱ってそれぞれのスペックや在庫を管理したりするのにはデータベースがうってつけです(図5)。

逆に、電子メールニュースのような不定形な情報を蓄積し、メンバーが企画書作成のために引用するといった使い方では、純粋なテキストファイルのほうが便利なこともあります(図6)。フォルダ内の全ファイルの中身を検索してくれるツールもありますから、分類やキーワードを考えてきちんとしたデータベースを構築しなくても、ほとんどの情報はアクセス可能です(図7)。インターネットで集めてきたHTMLの情報をそのままの形で保存しておけば、関連情報へのハイパーリンクも生かせますし、<title>タグや<h1>タグを頼りに文書の概要一覧も簡単に作成できるというメリットもあります。

情報共有といえばデータベースと決めつけるのではなく、できるだけ柔軟な形でデータを蓄積していくように考えてみましょう。

分析業務を支援するソフト

今回システムを構築する新会社の業務は、映像関連ビジネスの企画提案が中心となります。この仕事で必要なのは、提案する事業の内容を分析するためのツールと、提案の内容を説得力を持ってプレゼンテーションするためのツールです。

事業内容の分析に一般に使われるのは表計算ソフトです。事業のさまざまな要素を数値化し、年次や月次の収支表を作成し、条件の変化によって結果がどのように変わっていくかをシミュレートしてみるのです(図8)。こうした普通のビジネス計算において、財務関数や科学計算用の特殊な関数が必要になることはほとんどありません。しかし、計算した数表はそのまま資料として添付することが多いので、印刷に関する設定の自由度は意外に重要です。多機能が売り物のソフトが多いジャンルですが、その中で何が必要なのかは、業務の流れをきちんと追ってみないとわかりにくいので注意してください。

プレゼンテーションを支援するソフト

もうひとつの重要なツールが、プレゼンテーション用の資料作成ソフトです。提出資料の作成法は、ワープロ中心型から、DTPソフトで仕上げるタイプ、プレゼンテーションソフトで画面による説明資料と合わせてつくる方法までさまざまです。

どの方法がよいのかは、求められる資料のタイプによって異なります。文章による説明が中心なら、ワープロがよいかも知れません。大勢の相手を前に、口頭で説明しながら要点を押さえていくにはプレゼンテーションソフト型が有効でしょう。

どれを採用するにしても、共通して大切なポイントは、整然と一貫した表現が無理なくできることです。ヘッダやフッタの設定、共通のレイアウトを簡単に作成できるマスターページ設定、書体を「大見出し」「小見出し」などの役割に応じて設定するスタイルシート機能などが用意されていることを確認しましょう(図9)。

プレゼンテーション資料はいわば最終作品ですから、他のソフトで作成した原案やパーツが簡単に取り込め、手際よく一貫したテイストでまとめられなければいけません。高度なグラフィック機能は不要ですが、基本的な概念を簡単に図示できるツールがあれば、矢印一つのためにあれこれソフトを切り替える必要が無く、提案内容に頭を集中することができます(図10)。

どうやって適切なソフトを選ぶか

必要なソフトのカテゴリーとそれぞれのソフトに求める機能が明確になったら、具体的な製品の選択です。カテゴリーごとに必要機能と候補製品を列挙した表を作り、それぞれの製品がどの機能を満たしているか、チェックしていきます(図11)。

各カテゴリーに共通する要素として、忘れずにデータの互換性を確認しましょう。データがどんなフォーマットで保存されるか、他のソフトの形式による読み書きは可能かどうかは、ソフトを組み合わせて利用したり、外部の人とデータを交換する場合に極めて重要です。仕事の相手によってはWindowsと互換性があるかどうかが決定的なポイントとなることもあります(図12)。

さらに、データの将来にわたる寿命を考えるとき、内容が簡単にテキストファイルに書き出せることは必須といって良いでしょう。標準形式のファイルがAppleScriptやHyperCardで扱えれば、内容の一括変換なども可能で、非常に柔軟な情報システムを作ることができます。

これらのスペックは、新製品ならば雑誌のレビュー、有名ソフトなら解説本に目を通すことである程度の概要が分かります。また、シェアウェアや、雑誌の付録でデモ版を入手できるものは、直に機能を確認することが可能です。こうした情報が不足しているときは、チェック表を片手にメーカーのサポートデスクに電話するなどの努力が必要になるでしょう。

ソフトの選定は意外に面倒な作業です。対象となるソフトはたくさんあるのに、雑誌の特集でもない限り、全体を網羅した情報はなかなか入手できないからです。いきおいバンドルソフトをそのまま使ったり、有名ソフトを購入するケースが多くなるでしょう。しかし、いったんソフトを使いはじめると、別のものに乗り換えるのは容易ではありません。長くつき合う相手を選ぶにあたっては、できるだけ時間をかけてじっくり検討したいものです。

(MacFan 1998-05-15号)