電子メールの仕組み
電子メールはどうやって相手に届くのだろうか。最初にその仕組みを見ておくことにしよう。送信の流れを知っていれば、電子メールが思った通りに届かなくても慌てなくてすむ。また全体像が頭に入っていると、次回以降で取り上げるメールソフトの操作の意味も理解しやすいし、場面に応じて様々な応用が利くようになるはずだ。
※今回のポイント:
- 電子メールはリレーで送られる
- 電子メールは一種の郵便局をリレーして相手の郵便受けに届く。通常は即時だが状況によっては時間がかかる。
- すぐに読まれるとは限らない
- メールの到着は受信者が郵便受けをチェックするまで分からない。届いたはずと思いこむとすれ違いが生じる。
- 受信したらまず受信通知を
- 送信者はメールが届いたかどうかを知る手段がない。受け取ったらすぐに受信した旨を返信する心配りを。
電子メールと郵便
メールソフトで文章を書いて「送信」をクリックすると、そのメッセージが相手に届く。一見メールソフト同士が直接対話しているような感じだ。しかし、実際のメール送信には他にもいろんな「仲介役」が存在し、その協力によって成り立っている。
この点で、電子メールは電話やファクスより郵便に例える方が分かりやすい。メールの「送信」は、手紙をポストに投函するのに似ている。「投函」されたメールは一種の「郵便局」でリレーされて、最終的には相手の「郵便受け」に届く。受け手は、送られてきたメールを郵便受けに取りに行ってから読む。
電子メールの郵便局、メールサーバー
電子メールでは、この「郵便局」に相当するものを「メールサーバー」と呼ぶ。メールに関するサービスをしてくれるところという意味だ。郵便局は地域ごとの分担があり、手紙はいくつかの郵便局でリレーされていく。同様に、メールサーバーもそれぞれ担当範囲を持っている。差出人は自分の担当サーバーにメール送信を依頼し、それが受取人の担当サーバーまでリレーされていくのだ。メッセージがこのようにリレーされるという点は、メールの仕組みを理解する上で大切なのでぜひ頭に入れておこう。
このようなメール転送の仕組みを、SMTPとよぶ。メールソフトの設定で「SMTPサーバー」という言葉が出てくることがあるが、これは自分のメールを相手に送ってくれる「地元郵便局」のことだと考えればよい。
郵便の場合、手紙は自分の郵便受けに配達されるだけで、便りが届いたことを知るためには、ときどき郵便受けを見に行かなければならない。電子メールの場合でも同じように、届いたメッセージは郵便受け(メールボックス)に投げ込まれる。受取人は自分で郵便受けをチェックし、メールがあれば取り出して読む。
たとえば自宅でメールを読むには、プロバイダに接続してメールソフトで「受信」をクリックする必要がある。それまではメールは郵便受けに保管されており、受信者の手元には届いていないのだ。
会社のようにパソコンが常時ネットワークにつながっている場合は、メールソフトの定期チェック機能を使ってメールの到着を確認することができる。そのため、会社の環境に慣れているとメールは自動的にパソコンまで届くものと思いがちだ。しかし相手の環境によっては、確認の方法とタイミングが異なるため、メールを送ってもすぐ読まれるとは限らない。
受信メールをいったんメールボックスに蓄積して受信者が受け取りに行く方法をPOPと呼び、受信用のサーバーを「POPサーバー」ともいう。このメールボックスはPOPサーバー上にあり、受信者がインターネットに接続していなくてもメールを受け取って置いてくれる。
2つの部分でできている電子メールの住所
郵便局は住所をたよりに郵便を配達する。同様に、メールサーバーも「電子メールアドレス」で相手を識別し、メッセージを届けている。
電子メールアドレスの一般的な形はkanzaki@xxx.co.jpというものだ。「@」マークをはさんだ二つの部分からなり、このマークの右側がメールサーバー名、左側が利用者のアカウント名(登録名)にあたる。送信側のメールサーバーは、アドレスの右側を見て、そこに書かれた受信者のサーバーを呼び出してメールを転送する。そして受信サーバーは左側のアカウント名を確認し、適切なメールボックスにメールを配達する。アドレスを二つの部分に分けることで、送信側と受信側の役割をうまく分担しているのだ。
メールサーバー名は、いくつかの文字列をピリオドでつないで構成されている。WWWのアドレスでもお馴染みの、インターネットの住所表記法だ。この方法による名前を「ドメイン名」と呼ぶ。
例にあげたドメイン名は、右から順に日本を示す「jp」、会社を表す「co」そして会社名「xxx」となっている。このようにドメイン名は、国、組織種別、組織名と大きな単位から順に段階的に構成され、実際の組織から連想しやすいように名付けられている。
「組織種別」の部分は、会社は「co」だが、ほかにも大学の「ac」プロバイダの「ne」などがある。また、地域別の「tokyo」「osaka」なども使われる。これらの名前を利用者が勝手気ままに付けていては、誰が誰だか分からず住所の役割を果たさないので、ドメイン名は登録制になっている。日本ではJPNICという機関がドメイン名の登録管理を行う。自分の会社名がここにドメイン名として登録されていると、「社員名@会社名.co.jp」というメールアドレスが使えるわけだ。
電子メールはいつ届くのか
最初に述べたように、電子メールはリレーによって送られていく。したがって、メールソフトの「送信」ボタンを押しても、その時点ではまだメッセージは相手には届いていないことになる。では、電子メールはいつ届くのだろうか。
郵便とは違って電子メディアを使う伝達だから、リレーされるといっても基本的には一瞬のことだ。多くの場合、電子メールはほんの数秒で届く。しかし条件が悪いと、電子メールも途中で渋滞にひっかかってしまうことがある。
年末に郵便が遅れて配達された経験があるだろう。この時期の郵便局は通常より遙かに多くの郵便物でてんてこ舞いになり、処理が追いつかなくなってしまうからだ。同様に、メールサーバーも想定以上のメールが集中すると、配信が順番待ちとなり、処理に数時間かかってしまうことがある。また相手のサーバーがメンテナンスなどで停止していると、送信元サーバーは一定時間後に再送信を試みることになる。サーバーはうまく送信できるまで数日ねばってみる。それでもだめな場合は、処理をあきらめて差出人にエラーを通知するしかない。
このように悪条件が重なると、メールは相手のサーバーに届くまでに数時間から数日かかってしまうこともある。さらに、POPの仕組みでは、受信者がメールボックスを確認しないことにはメールの到着はわからないから、のんきな相手だとせっかく送ったメールも数日後にしか読まれないという可能性もある。
こんな事情で、電子メールは何秒以内に届くという保証はない。今日の待ち合わせの変更をメールで連絡した場合、相手の受信状況によっては二人が違う場所ですれ違うという事態もあり得るのだ。
メールソフトの中には「受信確認」という機能を備えているものもあるが、残念ながらこれはどこでも通用するものではない。送ったメールが届いたかどうかを、自動的に確認する標準的な方法は存在しないというのが実状だ。
そのため、重要な用件はメールだけに頼らないで、タイミングを見て電話などでフォローすることも必要だ。逆にメールを受信したら、すぐに受信確認のメールを返すように心がけたい。送信主としては、返事がないのは不安なものだ。あとで詳しい返信をするつもりでいても、まず一言「受け取りました」と送ってあげることで、やり取りが非常にスムーズになる。電子メールは完全ではないから、やはり利用者同士の心配りが大切なのだ。
用語解説
- SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)
- 電子メールを送るときの手続き上の約束。詳細を知る必要はないが、ソフトの設定でこういう略語が出てくるので、知っておくと驚かずにすむ。詳しくはメールの約束SMTPの説明を参照。
- POP(Post Office Protocol)
- メールボックスに蓄積されたメッセージを取り出すための手続き上の約束。やはり設定画面で登場する。バージョン番号を付けてPOP3となっていることもある。詳しくは私書箱を用意するPOPの説明を参照。
- サーバー
- プロバイダなどのコンピュータで常に働いて利用者の仕事を請け負うソフト。メールサーバーの他にウェブ用のWWWサーバーなど様々な種類がある。
- 組織種別ドメイン
- 会社を表す「co」のほかにも、政府機関の「go」大学の「ac」小中高の「ed」プロバイダなどの「ne」特殊法人などの「or」任意団体の「gr」がある。また米国では国名を用いずに、会社を示す「com」やネットワーク組織の「net」で終わるドメインが使われる(正確には、米国だけに限定されないグローバル・トップレベル・ドメイン)。これらのドメインはさらに種類が増やされる予定だ。ドメイン名について詳しくはDNSとアドレスのページを参照。
- JPNIC
- 日本ネットワークインフォメーションセンター。日本のインターネットに関する管理を行う。世界レベルの管理を担当するInterNICの下部組織。
初出:『週刊ダイヤモンド』2000年4月8日号