ソフトの設定と送信

メールソフトは利用者が記述したメッセージを適切な形でメールサーバーに送り出したり、メールボックスに届いたメッセージを取り出して、利用者のために表示する役割を果たす。メールソフトを利用するためには、これらのサーバーに関する情報を設定する必要がある。準備ができたら、自分の送ったメールがどんな風になるかまずチェックしてみよう。

※今回のポイント:

アカウントを設定して送信
最初にサーバー名などを登録し、署名も用意する。まず自分に送ってどんなメールになるか確認するとよい。
件名と引用の落とし穴に注意
件名は一覧表示でもよくわかる具体的なものを。返信時の原文引用は有用だが過剰になると失礼。
メールの安全性はハガキ程度
電子メールは裸でリレーされるので秘密の内容には不向き。それ以上に送信相手を間違えると悲劇だ。

メールソフトの設定

メールソフトは、利用者に代わって前回説明したようなメールサーバーとのやり取りを担当してくれる。そこで、最初に基本情報をソフトに覚えさせ、毎回自分の名前やメールアドレスを記入したりサーバーを指定しなくてもすむようにしておく。このような登録を「アカウント設定」とか「初期設定」と呼ぶ。

アカウント設定画面例:POPサーバー、ユーザー名、パスワード、SMTPサーバーなどを設定するアカウントの設定作業は、大きく分けてサーバー情報の設定と利用者自身に関する情報登録の二つがある。

サーバー情報の設定とは、(1)送信(SMTP)サーバーと(2)受信(POP)サーバーの名前をソフトに教え込むことだ。また、メールを受け取るにはメールボックスの名前((3)ユーザー名)とその鍵((4)パスワード)も必要だから、これらも合わせて登録する。これらの情報を事前に設定しておくことで、「送信」「受信」ボタンをクリックしたとき、メールソフトは迷うことなくメッセージを「投函」したり「郵便受け」をチェックしたりすることができる。

サーバー名やアカウント名などは、会社のシステム管理者やプロバイダから指定される。SMTP、POPといった用語で迷わなければ設定は簡単だ。

利用者自身に関する情報としては、自分の(5)メールアドレスと(6)氏名を登録しておく。この情報を使って、メールソフトは送信メールのヘッダに差出人の名前とアドレスを記入する。氏名は漢字にしてもよいが、古いシステムを考慮してローマ字を使うことも多い。

手紙の場合、封筒だけでなく便箋の最後にも住所氏名を書く。電子メールも、一般にヘッダの差出人情報だけではなく、本文の最後に氏名や連絡先を書く習慣になっている。多くのメールソフトは、こうした情報をあらかじめ登録して、「署名」として自動的にメッセージの最後に付け加えてくれる機能があるので、これも最初に設定しておく。

署名には氏名だけでなく会社名や電話番号も書いておくとよい。メールの用件に関連して電話をかけたりファックスを送ることは意外に多いので、この情報は相手にとっても親切な配慮だ。個性的な署名は自分をアピールするという営業効果もある。ただし、調子に乗って凝りすぎると逆効果になるから、せいぜい4〜5行程度にまとめておくべきだろう。

最初のメールはまず自分に送ってみる

アカウントの設定ができたら、早速メールを書いて送ってみる。「作成」「新規」などのボタンでメッセージ画面を用意し、相手先のメールアドレス、件名、そして本文を記入していく。

最初は練習のために、自分宛にメールを送ってみるとよい(差出人と受取人が同じでも問題は生じない)。失敗しても迷惑がかからないし、送ったメッセージがどんな風になって届くのか確かめてみることもできて、一石二鳥だ。

通常メールソフトは送信時に自動的に改行を加えるなどの調整を行うので、相手に届いているメールは、自分が書いたままの体裁とは限らない。実際、メール作成画面で見るのと受信したメールとして読むのとでは、同じ内容でもかなり印象が異なる。この違いを確認するためにも、自分宛にメールを送るというのは有効な手段だ。メールは送りっぱなしで、相手にどんな形で読まれているか全く気にとめない人が多いが、一度はこうしたチェックをしてみるべきだろう。

メールをいくつか受信してみると気付くように、件名には受信者に親切なものとそうでないものがある。たくさんのメールを受け取る人は、まず受信一覧をながめて重要なものから読む。このとき件名が「お願い」とか「質問」では重要度が判断できず、スピーディな処理ができない。件名は本文の内容の見当がつくよう具体的に書くべきなのだ。

同じ理由から、メールの本文は大切なポイントを最初に書くように心がけよう。メールソフトは一覧の下に本文表示画面を持つものが多い。メールの最初に要点がまとまっていれば、一覧表でメッセージを選択したときに表示される部分だけで用件がわかる。受信者は一覧表をどんどん進んでいくだけでよい。肝心なことが最後に書いてあると、いちいち本文をスクロールしなければならないので、著しく効率が低下してしまう。

間違いだらけの返信メール

メールソフトの返信機能を使うと、ボタン一つで宛先や件名が自動的に挿入された画面が用意される。全てのメッセージが往復ハガキになっているようなもので、この手間いらずの機能があるから電子メールがこれだけ活用されると言っても過言ではない。電子メールにおいてはタイムリーな返信が重要だから、特にこの機能は有用だといえる。

メールソフトの返信ボタンを押すと、もとのメッセージが引用された形で画面が準備される。これを編集し、返信文を書き加えるのが一般的な返信メール作成法だ。原文を適宜引用すると、話の流れを間違いなく簡潔に示すことができるので、電子メールでは頻繁に用いられる。従来の手紙文からみると奇異にうつるかも知れないが、適切な引用があれば過去のメールを参照することなく経緯を理解でき、送信者、受信者双方にとって便利な方法だ。

しかし引用は必要最小限の範囲にとどめておかねばならない。たとえば(下図のように)原文をまるごと引用してひとこと「了解しました」と書かれた返信をうけとったら、大多数の人は失礼なメールだと感じるだろう。過度の引用は、オリジナルを茶化されている、あるいは添削されているというイメージを与えてしまうのだ。

よくないメールの例:わかりにくい件名や、全文引用はメールのマナーとしては最悪の部類に入る

返信機能はあまりに簡単で便利なので、メールソフトが用意した引用部分をよく確認しないまま、自分の言いたいことだけを書いて即座に送信してしまう場合が多い。しかし、せっかのクイックレスポンスも、全文引用で無礼者扱いされては、逆効果になってしまう。こういう点はなかなか指摘してもらえないので、やはり自分にも同じメールを送ってみて、どんな印象になるかを確かめるなどの工夫が大切だ。

Note: 全文引用について、「昔はインターネットの回線が貧弱だったため、余計な引用が“トラフィックを増やす”から歓迎されなかっただけ。今は昔と違うので、全文引用してよいのだ」という主張を耳にすることがある。確かにかつては“トラフィック”という面から全文引用を非難する議論もあったが、そういう次元とは別に、コミュニケーションのありかたとして失礼という常識的な感覚を持って欲しい。

電子メールの安全性はハガキ程度

電子メールの便利さになれると、何でもメールで送りたくなってくる。では、電子メールで未発表製品の資料を関係者に送っても安全だろうか。

前回述べたように、電子メールはメールサーバーでリレーされていく。そのときサーバーは、一時的にメールをディスクに保存する。つまり、電子メールの内容は中継サーバーの管理者ならチェックできるということだ。

他の人の目に触れる可能性があるという点で、電子メールはハガキに近い。全てのメールが第三者に読まれているわけではないにしても、秘密が漏れない保証はないというわけだ。さらにうっかり送信アドレスを間違えたら秘密どころではない。今後は暗号を用いた安全なメールが普及するだろうが、今の時点では機密事項は他の手段で送るほうが賢明だ。

また、サーバーはメールを中継するときにその記録をヘッダに書き込む。記録が残るので逆探知は電話よりも容易だ。いたずらメールは確実に発覚する。差出人アドレスをごまかす程度で身元が割れないなどと考えてはいけない。

社内恋愛のメールも、いちいち監視するほど管理者が暇ではないというだけで、いざとなったらチェックできることは頭に入れておこう。それよりも、宛先を間違えてバレてしまうケースの方がずっと多いのではあるけれど。

用語解説

アカウント
電子メール送受信のための「口座」のようなもので、送受信のサーバー名とメールボックスの名前が基本セット。銀行口座を複数持つように、複数の「アカウント」を使い分けられるメールソフトも多い。
メールソフトは本文の前に「メールヘッダ」という送り状のような情報を加える。差出人情報はヘッダのFrom:というフィールドに、氏名と送信元アドレスをセットにして書き込まれる。この「ヘッダ」で漢字を使うにはメールソフトが特別なルールに従う必要があるが、古いソフトはこのルールに対応していない場合があるので、氏名をローマ字にすることが多かった。ヘッダには差出人の他に宛先アドレス(To:)送信日時(Date:)件名(Subject:)などの情報が含まれる。
暗号
鍵となるデータを使ってメッセージを意味不明のものに変換し、受信したら鍵を使って元の形に変換して読むことで秘密を守る。いくつかの方法があるが、お互いのメールソフトが同じ暗号方式に対応していないと使えないので、標準方法の確立と普及が待たれている。

初出:『週刊ダイヤモンド』2000年4月15日号