マット・サージェント:
セパレーション・ソング
(エクリプス四重奏団) ホモフォニックで穏やかな聖歌の主題を54回変装する。テンポやリズムは一定だが、2つのSQが重なり合って和声が少しずつ変化し、不協和/緊張が生まれる。とはいえ驚くような響きが聞けるわけでもなく、休みなし73分はさすがに長い。ヒーリングには良いかも知れんが。エクリプスQが2つのSQ譜を奏して多重化しているようだ。これを都合2時間半も弾くとは、お疲れさま。Cold Blue Music
CB0055
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ミーラ・オライリー:
2つの声のためのホケット
(オライリー) ホケットは旋律を分割し複数パートに割り振って演奏するもので、ハンドベルも近い。オライリーが一人で両声部を歌い、左右のスピーカーに分かれて聞こえてくる。1分強の曲が7つ、全体で10分しかないが、それぞれ2声を△と●の高低のみで示し線で繋いだ図形譜例があって、仕掛けが分かり面白い。Cantaloupe Music
CA-21149
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ジェイムズ・オキャラハン:
主/客
(パラミラボ・アンサンブル) Fl+Cl+Vn+Vc+Pf+打の音断片が電子的に変調され硬い打や鋭いアクセントで分節される。靄のかかった空間で未知の物体がうごめいている感じ。「自我へのノートについて」は個々の音が直線/曲線運動を持ちながら最後は遠くの声も。「AMONGU AM A」は吹き矢のような鋭い音が飛び交い音圧も高まる。「単独そして非単独」は加工された音がときおり水底から湧き上がってくるというか。夜の森のような世界に最後に光がさすが、夜明けではなく人工的な御伽の宮殿が浮かんで消える。Ravello Records
RR8020
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フィリペ・ピレシュ:
ディアロゴス
(リスボン現代音楽グループ) Fl+打、Guit等+Pf、弦三部の3グループの内、間および楽器vsテープでの対話が行なわれる。モノロゴスはFL他の6奏者が同じパターンの絡み合いを繰り返す。オクトロゴスは8奏者がそれぞれ独自に動き、ソロになったりデュオやトリオになったり。プロロゴスはテープ音を背景にFl+Cl+Vn+Vc+Pfのアンサンブル。メトロノミエはFl+Va+Hpでややエキゾチックというかストラヴィンスキー的というか。「マドリードのエレジー」はFl+Guitで、ポルトガルのベイラ・バイシャで歌われていた旋律によるという。La Ma de Guido
LMG2159
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ルー・ハリソン:
打楽器のための組曲
(マールストレム・パーカッション・アンサンブル) 5人の奏者でガムランほか高低音のある打楽器を組み合わせる。「第5シムフォニー」は打四重奏で、オケ版第4交響曲の50年前に書かれている(13番というのもある)。「ラビリンス第3番」は打11人、「二重音楽」はケージと共作した四重奏、ほか「フーガ」「カンティクル第1番」「ケツァルコアトルの歌」「ボンバ」いずれもフレクサトーン、クラベスから木魚、植木鉢まで多様な打楽器で、音律というか音程のようなものがあるフレーズを組み立てている。1940年前後の打楽器作品群。Hat Hut Records
888831582762
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ハウベンシュトック=ラマティ:
弦楽三重奏曲第1,2番
(アンサンブル・ルシェルシュ) スルポンのトレモロを多用し、短い攻撃的パッセージを繰り出す、かと思うと隠れて居ないふりする。2番の2楽章以外は短く凝縮されているというかあっけないというか。「3楽器の協奏曲」はPf+Tb+打がそれぞれ技巧をこらして競演。Tbはかなりアクロバティック。「カンディンスキーのために」Fl+Ob+Clが日向ぼっこしながら絵画鑑賞してるか。Hat Hut Records
888831581925
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アルド・クレメンティ:
即興曲
(アイヴズ・アンサンブル) Cl5各楽器の古典旋律らしき勝手奏が絡み合い溶け出す。「働く昼には」次々に湧き出るカノンもどき。「七重奏曲」くねくねにプリペアドぽいPf点打。「スケルツォ」木管弦が奏するも電子Org単和音が全てかき消す。「…天国にて」Cel単純和音連打上で9重奏。「スタディ」はVn+Tp+Pfが小さくcrescしては打ち止め。「デュエット」はFl+ClにTpがエコーで重なる。「マドリガーレ」は4手Pf+Vib+打+テープか、おもちゃの巻きねじが切れていく。「2つのカノン」Fl+Vnの極遅カノンもどきに意味不明Pf。「来たれ創造主」9重奏がCel単調和音上でグレゴリオ聖歌を解体。超アナーキー。Hat Hut Records
888831585442
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久田典子:
黄色いレンガに導かれて
(アンサンブル・ノイエ・ムジーク・チューリッヒ) Fl+Cl+Vn+Vc+Pf/Cel+打に声を加え、オズの魔法使いに基づく音物語を描く。出会いがあったり、状況が切迫したり、などなど、いろんな情景が浮かぶファンタジックで多彩な表現がふんだんに盛り込まれ、よくできているのだけれど、1時間近い構築物としてはややとらえどころがなく、(表題に引きずられ過ぎかも知れんが)舞台なり紙芝居なりと組み合わせるとよいのかも。Hat Hut Records
191773465506
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久田典子:
プログノスティケーション
(アンサンブル・ノイエ・ムジーク・チューリッヒ) 5人の奏者はFl+2Vn+Cb+Pfかな。各楽器の緊張関係がうまくコントロールされ緩慢なところがない。Cbがよく働く。「プログレッション」はPf独奏(手叩4重奏版もある?)。「ランドスケープ」はFl+Cl+Vn+Vc+打の5重奏でポルタメントが印象に残る。「コンティニュアンス」はVn+Vcで、中間部は動きがあるが前後は緊張を維持しきれないかも。「プライムα」はFl+Cl+Vn+Vc+Pf+打の6人でバランス良いまとまり。どれもよく聴くとそれぞれの味わいがある。Hat Hut Records
191773465506
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ジョン・ケージ:
心象風景第1~5番
(マールストレム・パーカッション・アンサンブル) 第1番は内部奏法Pf+Cymbにランダムな電子音を加えるが、電子音が単調な正弦波なのが辛い。第2番は音高差のある鳴り物にいろいろ横槍が入る行進曲、第3番は圧縮された2番に1番の正弦波が乱入する。第4番は12台のラジオ、第5番は42の録音機から出てくる音のコラージュ。併録「しかし紙をクシャクシャにする音~はどうだ?アープは水や森に触発された」は+やoで発音が指示された10パート譜から3つを任意に選んで各奏者がそれぞれのテンポでゆっくり奏するとされていて、静かな庭でときおり水が滴ったり葉が風に鳴ったりするような、無の音楽。冗談みたいな落差。Hat Hut Records
888831591221
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ジョージ・クラム:
秋の11の木霊
(アンサンブル・ノイエ・ムジーク・チューリッヒ) Vn+AFl+Cl+Pfという編成で、Pf内部奏法で示される断片のような主題に始まる11のエコー。楽器をPfの弦の近くで奏して倍音を生んでみたり、弓の毛を緩めて弾いたりと、試みもさまざま。併録「4つの夜想曲『夜の音楽 II』」はVn+Pfで、ハーモニクス、ピチカート、内部奏法などをシンプルに組み合わせる繊細な景色。「鯨の声」は例のFl+Vc+Pf、マスクを(口にではないけど)付けて演奏するというのは、このご時世にあってシュール。「印象第2集『夢の流れ』」はVn+Vc+Pf+打+グラスハーモニカで音が時々しか鳴らない。静かな庭のよう。Hat Hut Records
888831581604
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リザ・リム:
心の耳
(チューリッヒ・ニュー・ミュージック・アンサンブル) Fl+Cl+SQでアラブ/イスラム音楽のルーツを持つというパッセージがぶつかり合う。「媚薬」は特殊調弦Vnの独奏。「悪魔的な鳥」はPicc+BCl+Vib+Pf+Vn+Vcという六重奏、「ブードゥーの子」はSop+7楽器、「ベール」は8楽器、「Inguz」(ルーン文字で豊穣)はCl+Vc。どれもグリッサンドあるいは微分音的なスライドで紡がれるフレーズを持ち、複雑でなんというか魔術的。速いテンポやリズムはなく、空間がゆっくり捻れていく。Hat Hut Records
888831582649
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松平頼則:
蘇莫者
(エベルハルト・ブルム) 盤渉調の越天楽という主題を軸に、音は不確実性をもってあちこちに飛び散る。併録「ガッゼローニのための韻」は松平頼暁の曲で、奏者は何やら呟いたり打を扱ったりもする。12の韻に各36秒が指定されるが、順序は自由だという。さらにAFlのための嶋津武仁「カシオペイア」、BFlを増幅してステレオで動かす篠原眞「パッセージ」、《ノグチの旅のように幾つかの地点を経巡りながら変化を続けていく》という武満徹「巡り」、BFlが尺八のような音がとても少ない細川俊夫「息の歌」。Hat Hut Records
888831582717
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近藤譲:
視覚リズム法
(井上郷子) 5楽器室内楽曲のPf独奏版。ポツポツとした単音を結ぶ線が、ほとんど同じようでいながら少し変化を加えて反復される《偽反復》あるいは《力動的静止》。「歩く」もFl+Pf曲の独奏版で、少しスキップして歩くような単純な基本動機が横跳びになったり躓いたり。「早春に」は旋律のオクターブ上(または下)の《影の音》が不規則に遅れて対話のように。「ヨーロッパ人」「撚りII」はかなり線的、「夏の小舞曲」はランダム、「記憶術のタンゴ」「高窓」はゆっくり和声が変化する。Hat Hut Records
888831591528
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マイケル・ゴードン:
アノニマス・マン
(クロシング) かつて作曲者が住んでいたロウアー・マンハッタンを舞台にした物語を、24声のア・カペラ合唱で綴る。ゆっくりした基本主題が繰り返し、少しずつ変奏されて登場する間に、エピソードがそれぞれの手法で語られる。エコーのようなわずかな時間差のカノンを用いた、催眠術的な音響。Cantaloupe Music
CA-21154
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松平頼則:
律旋法による3つの即興曲
(井上郷子) Hyojoとあるから平調(mi)なのだろう。動いたかと思うと様子をうかがい、音もあちこちに飛ぶのに、ある方向に進んでいく不思議な曲。伊藤祐二「ソロイスト」はゆっくり流れる時間の中で和音にこたえて少し動く反復。藤枝守「ジャイロ・タンゴ」は退屈な舞曲に空中でアルペジオが答える。平石博一「鏡の中の虹」は速いアルペジオの中で。戸島美喜夫「冬のロンド」はリズミカルな遊び。近藤譲「高窓」はホモフォニックな和声がゆるやかに変化していく。甲斐説宗「ピアノのための音楽I」は低音の鬱陶しい蠢きから徐々に重心が高まっていく。それから武満徹「雨の樹 素描」。Hat Hut Records
888831584551
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ジェイムズ・テニー:
ピカ=ドン
(ウィリアムズ+マールストレム・パーカッション・アンサンブル) 2つの部分がAlamogordo、Hiroshimaと名付けられ、4つのナレーションが重なり合いながらその様子を「証言」する。4群の打楽器を場の四隅に配置し、客席を真ん中にして演奏するという。併録「ルーン」は音程のない楽器による和声空間というアイデアだそうで、異なる高さの音の打五重奏。「ドラム四重奏曲のための3つの小品」は逆に同じ音の打でどんなものができるのか。「マキシミュージック」はドラのトレモロらしき単調な音が5分ほど続いた後で突然各種打が忙しく騒ぎ始めるが、ドラの一撃で打ち消されて元に戻る。Hat Hut Records
888831582281
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クリスチャン・ウォルフ:
ピアニストのためのデュオ I
(チューダー+ケージ) 比率ネウマという、五線譜から図形楽譜に至る試行錯誤のひとつを用いて記されているという。コロンを挟んで秒数と演奏内容が指示され、音高などは演奏者が選べるが時間軸は概ね定まっている。「プリペアド・ピアノのための」も同年の作品だから、手法としては同様だろうか。ポツポツと音が断片的に投入される。併録はケージのピアノのための音楽第52番~56番、コーネリアス・カーデューのピアノ・ソナタ第3番、フランコ・エヴァンジェリスティ「音の反射」、ボー・ニルソン「量」、アンリ・プスール「即興曲と変奏曲 II」、みな1950年代後半の、同時代性の濃い音楽。Hat Hut Records
889176569951
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ジョン・ケージ:
Ten
(アイヴズ・アンサンブル) Fl+Ob+Cl+Trb+Pf+打+SQの10人で、かつ打は10種類の楽器を選んで使う。微分音の長音が入れ替わりながらゆるやかに上下しときどき打やPfが合いの手を挟む。「龍安寺」は打+Trb版となっているが、ふにゃっとした上声はFl。Trbはペダルトーンでブツブツ言う。仏頂面で気が向いたときに鳴る鐘太鼓。FourteenはTen-ObにBFl+BCl+Hr+Tp+Cbで、やはり長音の入れ替わりで進むが音の幅は広い。短いインターバルでいくつかに区切られ、少し音景色が変わる。Hat Hut Records
889176561429
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ハウベンシュトック=ラマティ:
シェイクスピアのためのモービル
(フラー+アンサンブル・アヴァンギャルド) ソネット53番、54番のテキストを用い、Sop+Pf+打のために図形楽譜で書かれた1960年の作品。後の絵画のような楽譜ではなくて、五線に書かれた断片が枠に配置されるモービル(浮動)楽譜。併録「リエゾン」はVib+Marmb+テープのための、やはりモービル。「認定書あるいは考えろよラッキー」はベケットの「ゴドーを待ちながら」によるSop+室内楽。弦楽四重奏曲第2番は1977年で、短い6つの楽章。ジンメルの思い出は静かな感傷から強い感情に変化したり、スルポントレモロとピチカートの胸騒ぎが鋭く交わされたりするが、全体の基調は静謐。Hat Hut Records
888831585640
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シュトックハウゼン:
シュピラール
(エベルハルト・ブルム) 短波ラジオが受信した音声をソリストが模倣し、楽譜の「螺旋記号」に従って変形するという作品で、ここではFl、(奇)声、電子楽器をソリストが扱っている。ラジオの音がかなり古臭い雰囲気を醸すが、それも含めてこの時代ならでは。Hat Hut Records
889176548697
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フェルドマン:
歌劇「~でもなく」
(ペスコ+レナード+フランクフルト放送響) ベケットのテキストに基づく、極めて限られた音がゆっくり変化していくフェルドマンらしい音構造。モノトーンなソプラノ。9連音の半音階的にくねる主題。時おり管打を少し伴って遠慮がちに何かが演じられる。音は高まっていくのだけれど、混沌のままくねりながら途切れる。Hat Hut Records
888831584629
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