11月に入ったとは思えない陽気の中、東京グリーン響の演奏会。春のカペレのブラ1に続いて、こちらはブラ2と、ブラームスの連投だ。
このところブリンクマンのLate Idyll - The Second Symphony of Johannes Brahms(ISBN:0-674-51176-X)を読み進めていたので、いろいろ研究してみようと思っていたのだが、最後の方でほかのことに時間を取られて読了しないまま演奏会当日を迎えてしまった。それでも、19世紀後半の文化史的背景をふまえた、ブラ1やベートーベン(特にエロイカ)との関係とか、バイオリン協奏曲との関連など、読んだ部分だけでも示唆に富んでいて、ずいぶん参考になった。
この曲は、牧歌的な雰囲気が強調されがちだけれども、作曲技法は相当凝っていて、それをきちんと弾きこなすのはむしろブラ1よりも難しい。拍節のずれやすり替え、和音のトリックなどが頻繁に用いられ、多元的に解釈が可能であるため、どういうつもりで音楽を組み立てるのかを意識していないと、どっちつかずの平板な音楽になってしまいがちなのだ。
曲の冒頭からして、低音のモチーフを主体に考えるのか、ホルンのフレーズを中心に据えるのかで、和声の捉え方も拍節の位置づけも変わってくる。多くの場合は、低音のD-Cis-Dはアップ(上げ弓)で始め、ホルンへのアウフタクトのように奏されるわけだが、ここをダウン(下げ弓)にすると、主客が入れ替わって、2小節目のホルンは属音の支配の上でオブリガートを奏でることになる、といった具合。今日はアップで演奏したけれども、ベース奏者の一人が同じ時期に出演した別の演奏会ではダウンを採用していたそうだ。ヨーロッパではときどきダウンで始めるという話も聞いたが、実際どんなものだろう。
拍節とボウイングの関係では、118小節目のquasi ritenenteの部分もややこしい。それまでの3/4の拍子のままで登場するが、どうみてもこれは単純な三拍子ではない。
ここは、3+2+3+4ととらえてそれに合わせた弓を付けることが多いと思うが、実はアクセントの位置がずれていて、ブリンクマンが指摘するように最初の1拍はアウフタクトと見なすこともできる。今回は思い切ってアウフタクト説を採用し、最初をアップにしてみた(2小節目の3拍目も同様)。このほうが、そこら中を強拍(ダウン・ボウ)にする従来型よりも、スマートなのではないかと考えての実験。珍しい弓使いなので、メンバーは目を白黒させ、ほかのパートからも奇異の目で見られたが、とにかくこの曲でブラームスはこういう手の込んだからくりをこれでもかと繰り広げているのだ。
それやこれやで、寄せ集めの知識を使って(もちろんノリントンの演奏も参考にして)、ブレイクスルーを狙ったブラ2だったが、本番は2楽章で緊張感が維持できずに、いまひとつうまく行かなかったという悔いも残る。
川田さんのコンチェルトは楽しかった。雇われトップでソリストに合わせてキューを出しながら弾くのは緊張してすごく疲れたが、これまで演奏した中でも屈指の体験だったと思う。