ノリントン体験
The Norrington Experience

彼の有名な“体験”シリーズを持ち出すまでもなく、ノリントンを聴くということは自分の中に新たな領域が生まれる「体験」です。拙い内容ですが、自分の体験記も少々交えた、ノリントンへの招待状です。

ベートーベン・ショック

1987年の後半のことです。その頃ニューヨークでは、新聞や雑誌に「画期的なベートーベン」というような記事がたびたび掲載されていました。そんな折り、ひょいと近所のレコード屋に足を運んでみたら、スピーカーから雷のようなティンパニと炸裂するホルンの音が聞こえてきます。一体なんだと耳を澄ますと、ベートーベンの交響曲2番の序奏ではありませんか。ベートーベンの繊細で耽美的な部分の代表のように思っていたこの曲がこれほどまでに荒々しく鳴り響くとは。すぐにカウンターでCDを確認しました。これがノリントンの演奏との出会いでした。

このCDが欲しいと言うと、「みんな売れてしまって、試聴用のこの1枚しかないからダメだ」ということでした。仕方がないので、少し離れた別のレコード屋に行ってみてもやはり売り切れ。バスに乗ってもう一軒行ってみましたが「ニューヨークではこのCDは当分手に入らないよ」と言われる始末です。

その年はニューヨークタイムズもタイム誌も、ベストレコードとしてこの演奏をあげていました。ハノーバーバンドやホグウッドによるオリジナル楽器のベートーベンが注目され始めていた時期ですが、これから一気にオリジナル楽器のベートーベン録音が盛んになります。あわせてブリュッヘンやアーノンクール(これは現代楽器)の全集、さらにガーディナーの全集録音が続くのはご存知の通り。ノリントンのこの一枚が、ベートーベンの演奏をすっかり様変わりさせてしまったと言っても大袈裟ではありません。

ノリントンのライナーノートから、彼がベートーベンの演奏について自ら語っている内容を紹介します。

ロマン派への挑戦

ベートーベン演奏に新風を吹き込んだノリントンは、次第に時代を下ってベルリオーズ、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンの交響曲を次々に初演当時の楽器と演奏法で録音し、話題を呼んできました。特にベルリオーズ幻想交響曲は初のオリジナル楽器による演奏として注目を集め、タイム誌などでも大きく報道されています。

さらにロッシーニやウェーバーのようなロマン派の作品を取り上げた上で、ノリントンとLCPは、ブラームスの交響曲全曲(96年完結)を当時の楽器で録音。95年にはワーグナーの序曲集、96年にはブルックナーの交響曲3番も発表し、「オーセンティック」演奏もここまで来たかという感慨を与えたのでした。

さらに、演奏会では、スメタナの「わが祖国」(96年5月12日、「プラハの春」オープニングコンサート)を取り上げ、意欲的なチャレンジを続けています。

ノリントンによる:

タイム誌のベルリオーズ演奏評(88年)

モーツアルト、ハイドンそしてそれ以前へ

(作成中)
モーツアルトでは後期の交響曲、ピアノ協奏曲に加え、「魔笛」「ドン・ジヴァン ニ」の全曲録音が注目されました。また「レクイエム」は独自のバージョンで演奏 しています。
ハイドンは後期の「ロンドンセット」交響曲を颯爽とした演奏で録音しています。
パーセル生誕200年に当たる95年には「妖精の女王」を録音しました。

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