MN128-SOHOとWeb共有で簡単モバイル

会社を出てから「しまった、あのファイルを忘れてきた」と思ったことはありませんか? 取りに戻るわけにも行かないので、会社に電話をかけ、ファイルを印刷してFAXで送ってもらったなどという経験のある人も少なくないはず。せっかく携帯電話やPHSを持ち歩いているなら、これで常に追い回されるだけでなく、どこにいってもオフィスと同じ環境を構築するツールにしてしまいましょう。これまで取り上げてきた機器や機能を組み合わせると、大がかりな装置を用意しなくてもモバイル環境をスタートすることが可能です。

モバイルで移動先でもビジネスを

今、コンピュータ各社は「モバイル」を最大の目玉のひとつとして力を入れています。デスクトップ需要の伸びがやや鈍化したと見るや、今度は携帯電話やPHSの型端末の爆発的な普及に便乗して、移動先でもコンピュータを使ってもらおうというわけです。

外出先で頻繁にメールを見たり、顧客の目の前でオフィスにアクセスしたりする、どこかの広告のようなシーンが本当にあるのかどうか、疑問がないわけではありません。しかし、朝、会社に立ち寄らず得意先に直行する営業マンにとっては、出先でメールを読めるというのは確かに大きなメリットでしょう。うっかり重要な資料を忘れてきても、外からサーバーのファイルを直接取り出すことができれば安心です。商談の結果を電子メールで送れば、報告のためだけに会社に立ち寄る必要もありません。まあ話し半分としても、「モバイル」をうまく使いこなせば、ビジネスの効率を高める可能性はありそうです。

MN128-SOHOのRASを使う

モバイルの最も単純な形態としては、プロバイダにメールアカウントを持ち、そこを経由して情報をやり取りするという方法があります。社内の電子メールを自動的に転送するような仕組みを用意すれば、これだけでも外出先で情報を受け取ることは可能です(図1)。しかし、本当に役に立つのは、やはりオフィスの情報に直接アクセスできる環境でしょう。外部から社内のデータを使えるようにするために、本格的なゲートウェイを構築するのはそう簡単ではありません。しかし、前回紹介したMacOS 8の「Web共有」と前々回に取り上げたISDNルーター「MN128-SOHO」とがあれば、意外と手軽にモバイル環境が用意できてしまいます。

MN128-SOHOを使って外部からのアクセスを許可するには、 RAS (Remote Access Server) という機能を使います。これは、電話回線を使って接続してくるクライアントに、内部で使っているのと同じ範囲内のプライベートアドレスを割り当てることで、LANの一部につながっているのと同等の環境を提供するものです。クライアントから見ると、MN128-SOHOはプロバイダのPPPサーバーと同じ位置づけになります(図2)。

アクセスの方式は同期64Kbps、V.110非同期、PHS(PIAFS)に対応しています。クライアントからの着信時に通信モードを自動的に切り替えるので、あらかじめサーバーの通信モードを設定する必要はありません。

MN128-SOHOの設定

MN128-SOHOの設定は例によってブラウザを通して行います。ルーターのURL(ここではhttp://192.168.0.1/)を入力して設定画面を呼び出してから「詳細設定」をクリックし、画面左のリストで「IP設定」を選んでください。右側のパネルをまん中よりやや下までスクロールすると「リモートアクセスサーバ機能」というラジオボタンの項目があるのでONを選択。さらに、その下の欄に遠隔ユーザーに割り当てるためのIPアドレスを指定します(図3)。このアドレスは、DHCPなどで割り当てる、通常のLANのメンバーのものと重複しないように注意しましょう。必要事項を入力したら、パネル上部にある「設定」ボタンをクリックします。

もう一つ必要なのが、着信電話を受け付けるための“電話帳”の設定です。左パネルのリストの中でまだ電話番号を設定していないものを選び、右パネルの下寄りにある「相手からの着信」を「許可」にします。その下にある受信ユーザIDと受信ユーザパスワードは必ず設定してください。他の欄は特に変更する必要はありませんが、「相手先名称」だけは、一覧表で着信用であることが分かるような名前を付けておきます(図4)。最後にパネル上部にある「以下の情報を電話帳に登録する」をチェックし、「実行」をクリックして完了です。

MN128-SOHOでは、電話帳は8通りしか設定できません。LAN側からプロバイダにダイヤルアップ接続するためにもこの電話帳を使うので、ユーザーが多いときは、個別にIDやパスワードを割り当てることは難しくなります。この場合は、RAS用のIDはグループ単位で共通とし、MacOS側の「共有設定」でアクセス管理などの工夫が必要でしょう。

クライアントの設定

電話を使ってこのMN128-SOHOにアクセスするクライアントの設定は、基本的にはプロバイダにダイヤルアップ接続する場合と同じです。「TCP/IP」コントロールパネルを開き、「経由先」は「PPP」を、「設定方法」は「PPPサーバーを参照」を選びます。ネームサーバアドレスは、LANでDNSを使っていなければ空欄で構いません(図5)。モデムの設定が済んでいない場合は、「モデム」コントロールパネルで適切なモデムを選んでおきましょう。

ここでは「PPP」の接続先がオフィスや自宅になります。コントロールパネルを開いて、ラジオボタンの「登録利用者」をチェックし、さきほど設定したID、パスワードとMN128-SOHO側の電話番号を登録します(図6)。

接続の実際

設定を終えたら実際に接続してみましょう。モデム(通信カード)を準備し、PPPを使ってMN128-SOHOにダイヤルアップします(写真)。普通のプロバイダの場合と同様、ユーザーの認証などを経て、接続が確立するはずです。

あとは、LANの内部でサーバーを利用するときと全く同じ。ブラウザを開いて、「Web共有」で公開しているサーバーを呼び出してみてください。お馴染みの画面が表示されましたね(図7)。外から電話で接続しているにもかかわらず、イントラネットを使っているのと同じ環境が実現しています。

PNFでファイルを直接取り出す

モバイル接続しているときは、時間とともに電話代が課金されますから、できるだけ素早く目的のデータを取り出せるようにしたいもの。ホームページから順番にリンクをたどっていくよりも、ファイル一覧から目的のファイルに直接到達できるPNF(Personal NetFinder)の方が便利なことが多いでしょう。

もっともオフィスでの「Web共有」はモバイル専用ではありませんから、LANの利用者が使いやすいように「ホームページあり」(PNFを使わない)と設定されているかも知れません(図8)。こういうときは、前回も触れたように、URLの最後に「/PNF:」を加えることで、設定にかかわらずファイル一覧を呼び出すことができます(図9)。こうした柔軟な利用法は、「Web共有」ならではのメリットです。

FTPサーバーを立てる

PNFは、ファイルの拡張子によって適切なアプリケーションが自動的に起動するように設定されています。これはLAN環境でのファイル共有には威力を発揮しますが、モバイル接続の場合は、かえって不都合なことが多いかもしれません。複数のファイルを取り出して、電話を切ってからゆっくり内容を確認しようと考えているときに、いちいちアプリケーションが立ち上がっては、接続時間がどんどん長くなって困ってしまいます。

こういうときは、NetPrezenzなどの簡単に使えるFTPサーバーを用意してしまうのもひとつの手段です(図10-11)。あとは、FetchのようなFTPクライアントを使い、普通のFTPサイトと同じような感覚でファイルをダウンロードするだけ。これならスマートにファイルをゲットできますね。

シンプルさが大切なモバイルの導入

モバイルを導入するには、方法がシンプルであることが大切です。オフィスのマシンを使いこなすだけでも大変なのに、それ以外にモバイルの操作方法を改めて覚える必要があるようでは歓迎されません。また、管理者の立場からも、最初はできれば大がかりな仕掛けを用意せずに済ませたいところでしょう。MN128-SOHOのようなRAS機能とMacOS 8があれば、普段の延長線としてモバイル環境を実現することが可能です。本格的モバイルに向けての第一歩としては、なかなか良い選択ではないでしょうか。

(MacFan 1997-12-15号)