ワーグナーの管弦楽曲集


このCDについて

95年10月には、久々の新録音が、なんとワーグナーの管弦楽曲集として発表されました。ノリントンは以前に「初期ロマン派序曲集」というCDで「さまよえるオランダ人」序曲を取り上げていましたので、ワーグナーを演奏すること自体それほど唐突ではないのですが、やはりベートーベンから始まってベルリオーズ、ブラームスと進んできたノリントンがついにここまで来たかという感慨があります。

しかも、今回は珍しく国内版も発売されたので、“古楽器による”変わり種ワーグナーとして色々な新譜評でも紹介されました(古楽器というわけではないのですが=後述)。透明感のある演奏については「新鮮である」「音楽のテクスチュアがよく分かる」とおおむね好評のようです。マイスタージンガーが非常に速いテンポで演奏されていることも「面白い」「一聴の価値あり」という意見の方が多いようですね。

しかし、一方で、『レコード芸術』誌のようにこの曲を「バロック・ヴァイオリンで弾かせることは歴史的におかしい。しかしレコード会社の市場拡大意欲と音楽家の功名心はそんなことなどお構いなしで『ワーグナーの真実の響き』とやらを追求させる」と、調べもせずに切って捨てている評もあります。実際は、ノリントンは古楽器をつかったなどと主張していません。当時の楽器と演奏法というだけで、輸入盤のライナーノートには「この時代の弦楽器はガット弦を使っていること以外は現代のものと同じである」と明記しています。ただ奏法や管楽器とのバランスが違うのであり、テンポやその他を厳密に研究して、ワーグナーが意図した演奏を再現するとこのように新鮮な音楽が立ち現れるということなのです。

そんな論外の評はともかく、このCDは期待を裏切らない素晴らしい出来映えになっています。ビブラートをかけない弦楽器と軽やかな管楽器のアンサンブルによるワーグナーがどんなにチャーミングか、ぜひお聴きになることをお奨めします。なにしろ日本では彼の重要なCDのほとんどが廃盤か未発売という状況なので、この指揮者の音楽を知る滅多にないチャンス。うかうかしていると、このCDもすぐに廃盤にされかねません。まだ聴いたことのない方、レコード屋へ!

なお、今回は珍しく国内版が出たと思ったら、(たぶん意図的に)輸入盤が全く入荷しない状態が続きました。12月も中旬になってようやく輸入盤が店頭に現れたので、値段も1000円ほど安い上に、本人によるライナーノートも読むことができるようになったというわけ。これからお求めの場合は、輸入盤の方がいいと思います。

日本盤とレコ芸の“サイテー”新譜評に関する若干のノート

調べもせずに先入観で愚かな決めつけ(歴史的背景を考慮した演奏=古楽器)を平気で書くから、やはり日本の音楽評論は底が浅いといわれてしまうのでしょう。まったく救いようがないね。こんな最低新譜評を読んで、この極めて重要な演奏を聴かずに(結局廃盤になるので)終わってしまう日本の音楽愛好家は、とても不幸です。

これはレコード会社の問題もあって、東芝EMIは何を考えたか、ライナーノートに日本の音楽評論家による解説を載せ、最も重要なノリントンによる演奏ノートを省いてしまっています。この解説は、比較的ノリントンの演奏をよく知っていると思われるD氏によるものであるにもかかわらず、ノリントンの考えを正しく伝えるものとはなっていません。まじめに演奏を聴いたり演奏者の書いた文献を調べることなく、国内盤の(レコード会社から渡された)ライナーノートだけ読んで「古楽器演奏=まがいもの」という先入観でアルバイト原稿を書くから、このような間抜けな評価になるのでしょうね。

§ノリントンのページへ