ヤマハの『楽譜音楽書展望』の12月号で特集1として「ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社『原典』を超える新しいエディション」という記事があって、新しい批判校訂版についての話をコープマンやクライヴ・ブラウンが語っていた。そう言えば99年に運命を弾いたときも、このブライトコプフの新版を使っていたんだっけ。この楽譜がポケットスコアで出版されていることに気がついて、とりあえずベートーベンの3番と5番を買ってみる。
ベーレンライターと比べてみると、同じ批判校訂版といっても、結構細部が違うものだ。印象としては、ベーレンライターはできるだけ史料に忠実に、ブライトコプフはそれに演奏上の合理性を加味した、という感じ。校訂者が追加した点線のスラーや[]付きの強弱記号は、前者よりも後者のほうがたくさん見られる。これら以外にも様々な箇所で、前者では括弧付きになっているものが後者は生の記号(つまり作曲者が自ら書いた)となっていたりして、これは参照している基礎文献や、その照合法が異なるということだろう。
どちらのアプローチが正しいということはなく、いずれも校訂者のポリシーに基づく楽譜なのだから、それを理解した上で演奏者が弾き方を考えればよい。しかし、近頃の原典版ブーム、特に「ベーレンライターに非ずば楽譜に非ず」みたいな風潮とか、「原典版にこう書いてあるからこの音はこう弾かねばならない」といった楽譜信仰に陥らないためには、こういう異なるエディションを眺めてみることも大切だろう。(2001-12-26)
※関連記事:ブライトコプフの新校訂シリーズも参照。