某日、必要あってヒンデミットの某曲のスコアを探しに行く。店の棚にはショット版とオイレンブルク版が並んでいた。オイレンブルクの方が少々高かったのだが、きちんと小節番号がふられ、しかも「New URTEXT Edition」というシールが貼ってあったので、こちらを購入することにした。
なんとなく、古い楽譜を手頃なポケットスコアにして提供する「文庫版」という印象のあるEdition Eulenburgも、実はときどき新版を投入してきている。ただそれは、デザインを変えたり「原典版」と大きく謳うわけでもなく、出版番号すら旧版のままだったりするので、よく注意してみないと気付かないことが多い。ある種の気骨を感じさせる方針と言えなくもないが、近頃の原典版ブームの中で、せっかくの改訂をアピールしないのはいかにももったいないのではないか。ということで、シールを貼って「URTEXT」を訴求することにしたのだろう、たぶん。
オイレンブルクの「新版」は、案外たくさんある。ブルックナーのノヴァーク版が揃っていたり、ハイドンのザロモンセットが1990年代にHarry Newstoneの校訂で一新されていたり、最近ではカルメンの全曲版がR. Didionの校訂で出たり。ほかにもモーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーンなどがいくつか新しくなっている。あまり話題にならない割にはけっこう頑張っているのだが、中でも目を惹くのが、Linda Correll Roesner校訂のシューマン交響曲(1~4番)と、Bathia Churgin校訂のベートーベン交響曲4番のスコアだ。
Roesnerは、シューマン研究所/シューマン協会による“本家”新シューマン全集の交響曲3番の校訂担当だ。この新全集版の3番は1995年に出版されているはずだが、オイレンブルクではそれに先立ち、1986年にポケットスコアを出している。しかも、1988年に2番、1993年に1番、1997年に4番と連続して校訂を行って「交響曲全集」を完結してしまっているのだ。ドラハイム校訂のブライトコプフ版よりも、こちらの方が注目なんじゃないかと今更ながら思ってしまう。
Churginも、ベートーベン・アルヒーフによる“本家”新全集の3番、4番の校訂担当ということになっている。この新ベートーベン全集の交響曲部門は、Armin Raab校訂の1、2番がヘンレから出たきりあとが続かない状態になっているわけだが、こちらもご本家に先駆ける形で、1998年にオイレンブルクから4番が出たというわけだ。このスコアには40ページほどの注釈(校訂報告に相当)も付いており、ベーレンライター版やブライトコプフ新版をスコア単体で見るより参考になるところも多い。
オイレンブルク新版は、ブライトコプフの「新原典版」と同様で、それほど「全集志向」ではない(ベートーベンの他の交響曲は、古いMax Unger校訂版のままだ)。だからますます目に付きにくいのだが、スコアを買う時は、黄色い表紙でも古いと決めつけず、校訂者とコピーライト年を確認してみるのがよさそうだ(シールは必ず貼ってあるとは限らないので注意)。