ノリントンとのマーラー体験などで素晴らしい演奏を披露してくれたピリオド・オーケストラ、OAEが初来日。期待を込めて、すみだトリフォニーで行われた演奏会(11月3日)に出かけてきた。
今回は指揮者なしでの来日で、リーダーのキャサリン・マッキントッシュが、なんとバス椅子に腰掛けてコンマス席から指示を出しながらの演奏だ。1曲目のサリエリ「やきもちやきの学校」序曲は、ホールに馴染まないのか、音が届いてこない感じだったが、2曲目のモーツァルトK.136あたりからは、軽快で透明な音ながらもよくのびる響きで、ピリオド楽器の魅力が存分に伝わってきた。3曲目の「音楽の冗談」(1、2楽章)は、ユーモアたっぷりでしかも切れ味よく、主体的なアンサンブルというOAEの持ち味がよく出た好演だった。
これは行けるぞというところで、いよいよムローヴァの登場。曲はまずシューベルトの「バイオリンと弦楽のためのロンド・イ長調」(D.438)だ。が、んー? 音色は確かに輝かしくムローヴァらしいのだが、オーケストラと調弦が合っていないというか、細かい音符がみんなうわずっている。それに、まだあまり弾き込んでいないのか、どうも楽譜を音にするだけで飽和していて、何だか余裕がない。こちらとしては、はやく曲が終わって欲しいと思いながら苦痛に耐えていたという有様だ。
休憩後のモーツァルトのVn協奏曲1番は、さすがにチューニングはまともで、その点は不安なく聴くことができた。2001年録音のCDの演奏よりも、ムローヴァはより積極的に、かなりガンガン鳴らしてきていて、安心できる上品な完成品というよりも、破調モーツァルトという印象。それでもこの曲は楽しむことができた。
しかし、チラシなどには「協奏曲ではムローヴァの弾き振りに注目」と大きく謳われていて、どんなものになるかとても楽しみにしていたのに、何のことはないムローヴァが後ろを向いて曲の出だしを合わせるというだけのこと。あとはソリストは弾きたいように弾くばかりで、オーケストラへのキューは全てマッキントッシュだ。ムローヴァとの“音のコミュニケーション”でダイナミックな音楽を生むということかも知れないが、そんなの協奏曲なら当然で、「弾き振り」というのは完全に看板倒れ。
最後のト短調交響曲(K.550)も指揮なしの演奏だ。OAEにはロンドン・クラシカル・プレイヤーズの時からお馴染みの名手も多く、さまざまな優れた指揮者との共演を経てきているから、曲のポイントを外すようなことはない。マッキントッシュのリードは実に的確で、アンサンブルはぴったり決まっていく。しかし、この辺りの曲になると、聴く方としてはいろいろ求めたくなるもの。OAEのト短調が表現するもの、OAEならではの40番とはどんなものかという点になると、なかなかつかみ所がなく、これは指揮者なしの限界なのかも知れない。3楽章の後半からチューニングが狂ってきたこともあり、最後はエネルギッシュではあるもののやや雑な感じになってしまったのは残念。
どんな事情があったのか知らないが、指揮者なしでOAE単独での初来日というのは、ちょっともったいなかったのではないか。もちろん何も分かってないヘボ指揮者では意味がないけれども、贅沢は言わずにラトルとかガーディナーぐらいで我慢するから、連れてきて欲しかったね。